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足関節捻挫とは?

足首の捻挫は、スポーツや日常生活の中でとても多く見られるケガのひとつです。サッカー、バスケットボール、バレーボールなどでの着地や方向転換、日常生活では階段の踏み外しなどでもよく起こります。

足首の捻挫は「よくあるケガ」ですが、実際には骨折や軟骨損傷が隠れている場合もあります。

また、きちんと治療をしないと「クセになる」再発リスクも高くなります。
「ただの捻挫だから大丈夫」と放置せず、正しいケアを受けることが大切です。

足関節捻挫
捻挫のタイプ

「足首をひねった」と表現されることが多いですが、その中にはいくつかのタイプがあります。

  1. 内側にひねる動き(内返し):足首の外側の靱帯(外側側副靱帯)を痛めやすい
  2. 外側にひねる動き(外返し):足首の内側(三角靱帯)の靱帯を痛めやすい
  3. つま先を上に反らした状態でひねる動き(high ankle sprain):すねの骨どうしをつなぐ靱帯(前下脛腓靱帯)を痛めやすい
  • スポーツ外傷の 15〜20%を占める
  • 突き指(20%)に次いで多い
  • 多い年代:15〜19歳が最も多く、その後も若い世代に多い
  • 男女差:10代〜20代前半は男性に多く、30代以降は女性に多い
  • 場面:およそ半分はスポーツ中に発生
  • 種目:大学スポーツではバスケットボールが最多。試合中に起こりやすい
  • 再受傷:一度捻挫すると2〜3割が再受傷すると報告されている
足関節捻挫の割合
足関節外側の構造

足首の外側には3本の靱帯があり、まとめて外側側副靱帯とよばれます。

  • 前距腓靱帯:すねの骨(腓骨)と距骨を前方でつなぐ靱帯。最も損傷しやすい。
  • 踵腓靱帯:腓骨と踵骨を結ぶ靱帯。ATFLに続いて損傷しやすい。
  • 後距腓靱帯:腓骨と距骨を後方でつなぐ靱帯。強度が高く、損傷は比較的まれ。

足首の靱帯のうち最も損傷しやすいのが前距腓靱帯です。前距腓靱帯は外側の靱帯の中でも最も耐性が低く、足首を内側にひねったときに強い力がかかるため、足首の靱帯損傷の8〜9割を占めます。

さらに大きな力が加わると、踵腓靱帯、まれに後距腓靱帯まで損傷が広がることもあります。

前距腓靭帯損傷の割合
外側靱帯損傷の重症度分類

足首の捻挫は損傷の程度によって大きく3つに分けられます。

Grade 1(軽度)は、前距腓靱帯が一部だけ傷ついた状態です。腫れや押したときの痛みは軽く、歩行も可能です。いわゆる「軽い捻挫」と呼ばれるものです。
通常5-14⽇間で回復。

Grade 2(中等度)は、前距腓靱帯が完全に切れてしまった状態です。腫れや圧痛が中等度にあり、歩行は難しくなります。通常回復には2-3週間を要する。

Grade 3(重度)は、前距腓靱帯に加えて踵腓靱帯も損傷している状態です。腫れが強く、歩くことができないほどで、関節の不安定性も顕著にみられます。回復には3-12週間あるいはそれ以上。

足関節捻挫の症状

足首の捻挫は「ただの捻挫」と思われがちですが、実際にはどの靱帯や骨を痛めているかで治療方法や回復の見通しが変わります。

  • 痛み:足首まわりの骨や靱帯を押すと強い痛み
  • 腫れ:重い捻挫ほど腫れが強い傾向
  • あざ(皮下出血);外くるぶしの周囲に多い。内側に見られることも。
  • 歩き方:痛みで歩けない/びっこをひく/普通に歩けることも
  • 不安定感
足関節捻挫後の腫れ
内反捻挫の合併損傷

足首を大きく内側にひねった(内返し)ときには、外側の靱帯だけでなく内側にも合併損傷が起こることがあります。

  1. 三角靱帯損傷:本来は外反ストレスで損傷しやすいが、強い内反時に距骨が内側に衝突して損傷することがある。
  2. 後脛骨筋腱損傷:足首の内側を支える腱で、過度な内反ストレスにより引き伸ばされて損傷する。
  3. 有痛性外脛骨:強い捻挫を契機に外脛骨が裂離し痛みを起こすことがある。
  4. 距骨の骨挫傷・骨軟骨損傷:内反の衝撃により距骨と脛骨・踵骨が衝突し、骨や軟骨に損傷が生じることがある。

足首の捻挫は多くの場合「外側の靱帯の損傷」として知られています。
しかし、強い衝撃やひねり方によっては内くるぶし側(内側の靱帯や周辺組織)にも損傷が及ぶことがあり、決して珍しいことではありません。

この損傷を見逃すと、痛みや不安定さが長引き、回復が遅れる原因になります。
そのため、足首を捻ったときには 「外側だけでなく内側にも損傷がないか」 をしっかり確認することが大切です。

内返し捻挫で内側も痛いことがある

足関節捻挫の検査

当院では、まず足首のまわりを丁寧に触診して、どこに強い痛みがあるかを確認します。
さらに、足首を動かしたときの痛みや動きの制限、痛みが出る場所をもとに、どこが損傷しているかを判断します。

その上で、超音波(エコー)検査を行い、靱帯の損傷の程度を詳しくチェックします。
もし骨折の可能性がある場合は、提携する病院でレントゲン検査を受けていただき、より正確に診断します。

前距腓靭帯損傷のエコー画像

オタワアンクルルール

足首のケガで骨折の有無をレントゲンで調べるべきかどうかを判断するための臨床基準です。
不必要なレントゲン撮影を減らしつつ、骨折を見逃さないことを目的としています。

Step 0. 除外基準を確認

次の場合はこのルールを適用できません。

  • 妊娠中
  • 感覚異常がある
  • 皮膚表面の軽い損傷のみ
  • 他の医療機関ですでに受診済み
  • 受傷から10日以上経過
  • 明らかな変形がある

※以前は「18歳未満は除外」とされていましたが、現在は小児にも有効と証明され、この条件は外されています。

Step 1. 圧痛の確認

  • 外くるぶしの後方または先端から6cm以内、内くるぶしの後方または先端から6cm、第5中足骨基底部、舟状骨のいずれかに圧痛がある → 陽性 → レントゲン推奨
  • 圧痛がない → Step 2へ

Step 2. 受傷直後の歩行能力

  • 補助なしで荷重して4歩歩行できた → 陰性 → レントゲン不要
  • 歩行できない → Step 3へ

Step 3. 現在の歩行能力

  • まだ歩けない → 陽性 → レントゲン推奨
  • 歩行できる → 陰性 → レントゲン不要
オタワアンクルルール

足関節外側靱帯損傷と似た症状を示すケガとして、以下のような疾患があります。

  • 第5中足骨基部骨折(下駄骨折)
    圧痛点と単純X線検査で比較的容易に診断可能。
  • 足関節外果裂離骨折
    小児(特に10歳以下)に多くみられる。圧痛部位の確認で鑑別可能。
  • 二分靱帯損傷踵骨前方突起骨折
    いずれも足部を強く外側にひねったとき(内返し)に生じやすい。
  • 前下脛腓靱帯損傷(High ankle sprain)
    症状の回復に時間がかかりやすい。
  • 腓骨筋腱脱臼
    新鮮例では脱臼が再現されにくい。
前距腓靭帯損傷のエコー画像

小児の足関節外果裂離骨折

子どもの骨はまだ成長途中のため、大人と違い「靱帯が切れる」のではなく、靱帯がついている骨の端がはがれる(裂離骨折)ことがあります。

足首をひねったときに起こりやすいケガです。

主な症状

  • 足首の外側(くるぶしの外側)が腫れる
  • 強い痛みがあり、歩くと痛くてびっこをひく
  • 数日で歩けるようになることもあり、捻挫と間違えられやすい
小児の足関節外果裂離骨折のエコー

足関節捻挫の治療

ほとんどのケースでは保存療法(手術をしない治療)が勧められますが、30%の人は治療をしても痛みや不安定さが残り、慢性的な症状に移行することがあります。また、初回の捻挫から3年以内に再び捻挫をする人も3〜34%いると報告されています。

そのため「ただの捻挫」と軽く考えず、適切な治療を受けることが重要です。

靱帯組織の修復過程

靱帯の修復過程

靱帯は時間をかけて自然に修復していきます。

  1. 炎症期(受傷後〜1週間):腫れや出血が起こり、体が修復の準備を始めます。
  2. 増殖期(受傷後1〜2か月):損傷部に瘢痕組織(仮の組織)ができて修復が進みます。
  3. リモデリング期(受傷後数か月〜1年):瘢痕組織が強くなり、靱帯としての機能が回復していきます。

これまでケガをしたときは「安静・冷やす・圧迫・挙上(RICE)」が基本とされてきました。
最近の研究で、「安静にしすぎると回復が遅れる」「冷やしすぎると治りが悪くなる」ことが分かってきています。

そこで登場したのが 「PEACE & LOVE」 という新しい考え方です。
ケガをした直後は「PEACE」、数日たって回復に向かう時期は「LOVE」と、それぞれの段階で意識すべきポイントをまとめた考え方です。

外傷後の処置の変遷
外傷後の処置PEACE

【PEACE】急性期の管理

P = Protection|保護
1〜3日を目安に過度な動きや負荷を制限。ただし完全な不動は最小限に。

E = Elevation|挙上
患肢を心臓より高く。害は少なく腫脹軽減に寄与

A = Avoid anti-inflammatories|過度な抗炎症を避ける
炎症は治るために必要な反応。薬やアイシングで抑えすぎると逆に回復を妨げることもある。

C = Compression|圧迫
包帯・テープで適度に圧迫し、出血・腫脹を抑制。

E = Educate|教育
ケガの状態や回復の流れを知って、自分でもできることを理解しておく。

【LOVE】回復期への橋渡し

L = Load|負荷
痛みの許す範囲で早期から段階的に荷重・運動

O = Optimism|楽観性
不安やネガティブな気持ちは回復を遅らせる。前向きな気持ちを持つことが大切。

V = Vascularisation|血流改善
痛みのない有酸素運動を早期導入→血行改善・機能回復・復職復帰を後押し。

E = Exercise|運動療法
可動域・筋力・バランス(固有感覚)を再獲得。再発予防にも有効。

外傷後の処置LOVE

靱帯は元に戻るのか?

靱帯がケガをしたあとにどのくらい強さを取り戻せるのかについては、ヤギやウサギなどの動物実験で多く調べられています。

完全断裂の場合

損傷直後には靱帯の強さが大きく低下します。その後は時間の経過とともに少しずつ回復していき、3週間から12週間にかけて徐々に強さが戻ってきます。受傷から6週の時点で正常な靱帯の約50%程度の強さに回復し、12週になると約60%程度まで戻ります。

しかし、それ以降は回復が頭打ちになり、14週から40週が経過しても60%程度の強さのまま変わりません。つまり、時間が経って治ったように見えても、元の靱帯よりも弱い状態が残ってしまう可能性があるのです。

重度の靭帯損傷の経過

部分損傷の場合

損傷直後は正常な靱帯のわずか13%ほどの強さしかなく、とても弱い状態になります。しかし、その後の回復は比較的早く、6週間が経過するころには正常な靱帯とほぼ同じ強さまで戻ることが分かっています。

つまり、完全に切れてしまった場合と比べて、部分断裂では靱帯の力が元の状態に近づきやすく、治りも早いのが特徴です。

軽度〜中度の靭帯損傷の経過

固定方法の選択肢

ギプス固定

  • 4週間以上の長期固定は、腫れや痛みの軽減、活動レベルへの復帰速度、患者満足度いずれも低下。
  • 炎症期の腫れ・痛みを軽減する効果があり、短期的な成績は良好。
  • 10日未満にとどめ、その後は運動療法へ移行するのが望ましい。

機能的装具

  • 半硬性装具、編み上げ式装具がある。
  • 受傷後早期から荷重とリハビリを組み合わせる治療で推奨されている。
  • 弾性包帯やテーピングと比べて腫れ・痛みの改善が早く、日常生活やスポーツへの復帰も促進。
  • 皮膚トラブルも少なく、患者満足度も高い。
  • 受傷後 4〜6週間の着用が推奨される。再受傷予防目的では6か月程度まで継続する報告もある。

弾性包帯やサポーター

  • 固定力は弱く、成績は半硬性装具に劣る
  • 装着は容易ではあるが、再受傷リスクや回復速度の点で限界がある。

テーピング

  • 受傷初期の腫れや痛みの軽減、日常生活やスポーツへの復帰においては効果がある。
  • 再受傷率や症状の残存において半硬性装具とテーピングに大きな差はなかったとする報告もある。
  • 皮膚トラブルのリスクがあるため、長期的な使用には半硬性装具が推奨される。
足関節固定の種類

捻挫後の腫れに対する処置

足首の靱帯損傷の後、腫れ(浮腫)が長く残ることは関節の動きに制限(拘縮)を残す原因になります。足は体の一番下にあるため重力の影響を受けやすく、腫れが足首だけでなく足全体に広がってしまうことが多いのです。その結果、皮膚や皮下組織、腱や神経の通り道である足根管、さらには靱帯を押さえる伸筋支帯などで癒着が起こり、動きが硬くなりやすくなります。

こうした合併症を防ぐために、早期からの浮腫管理がとても重要です。

  • 圧迫用パッドの作製:骨の形に合わせて内くるぶし・外くるぶしの周りや、足首の前方、アキレス腱の内外側といった腫れがたまりやすい部分を狙って、オーダーメイドのパッドを作製します。足の甲の部分はガーゼなどを用いて中足骨の隙間を埋め、均一に圧迫されるようにします。
  • 弾性包帯による圧迫:パッドの上から弾性包帯を巻き、適切な圧迫をかけて腫れをコントロールします。
  • 軽い運動による筋ポンプ作用:圧迫した状態で、足首の底屈・背屈(足を伸ばす・反らす動き)を軽く抵抗をかけながら10〜20°程度の範囲で行います。これによりふくらはぎの筋肉がポンプのように働き、血液やリンパの流れを改善して腫れを引かせます。
捻挫後の腫れの対処

足関節捻挫のテーピング

まず、テーピングは損傷した靱帯を補助し、足首の不安定な動きを抑えることで再びひねるリスクを減らします。また、適度な圧迫によって腫れを抑え、動かしたときの痛みを和らげる効果もあります。

さらに、テーピングは血液やリンパの流れを整えて腫れを軽減し、回復を早めます。

足関節捻挫の機能的テーピング

足関節捻挫のリハビリ

足関節外側靱帯損傷の治療は、まず保存療法が第一選択となります。特にGrade1(軽度)・Grade2(中等度)の損傷では、適切な固定とリハビリを段階的に行うことで、多くの場合は手術を行わずに復帰が可能です。

Ⅰ度損傷では2〜4週、Ⅱ度損傷では4〜8週を目安に競技復帰を目指します。損傷の程度や回復状況に応じて、固定の期間やリハビリテーションの進行を前倒しする場合もあります。

初期段階(1週目)

受傷直後は「悪化させないこと」が最優先です。

  • 痛みや腫れの管理
  • 足首の動きを少しずつ回復させる(可動域の練習)
  • 関節の感覚を取り戻す(バランス感覚の回復)
足関節捻挫のリハビリ

中期段階(2〜4週目)

腫れや痛みが落ち着いてきたら、徐々に負荷をかけます。

  • 少しずつ体重をかけていく
  • ランジなど動きのあるエクササイズを導入
  • 片足でのエクササイズでバランスを鍛える
足関節捻挫のリハビリ

終了段階(5〜6週目)

スポーツ復帰を見据えて、より実践的なトレーニングを行います。

  • ジャンプやステップなどの瞬発的な動き(プライオメトリック)
  • 実際の競技に近い動作の練習
  • 負荷を上げながら、再受傷のリスクを減らす
足関節捻挫のリハビリ

慢性足関節不安定症(CAI)について

足関節捻挫を繰り返すと、靱帯や周囲の組織がうまく修復されず、足首に「ぐらつき」や不安定感が残ってしまうことがあります。このように、捻挫が癖になった状態を慢性足関節不安定症(CAI)と呼びます。

CAIの症状

  • 感覚の問題:足首が内側にぐらっと傾いたとき、自分でその角度や動きを正しく感じ取りにくくなる。
  • 筋肉の反応の遅さ:足首を守る筋肉(特に外側の筋肉)が反応するのが遅れ、踏ん張りがききにくい。
  • バランスの低下:片足で立つなどのバランスが悪くなり、動いているときも安定しづらい。反対の足にまで影響が出ることもある。
  • 筋力の低下:足首を外側に支える力が弱くなり、踏ん張る力が落ちてしまう。
Chronic ankle instability
慢性足関節不安定症

CAIの要因

CAIは次の2つが関与して慢性的な不安定性に陥ります。

  • 構造的不安定性:靱帯や関節構造そのものの損傷によって関節の安定性が失われる状態。
  • 機能的不安定性:足関節の構造に損傷は大きくなくても、足首が「不安定に感じる」「踏ん張れない」といった主観的な不安定感が続く状態。

固有感覚とは

CAIは足首の「固有感覚」の低下と深く関係しています。固有感覚とは、自分の関節や筋肉の位置や動きを感じ取る力のことをいいます。目をつむっていても自分の関節の位置や角度を認識できるのはこの感覚のおかげです。

固有感覚は、筋肉や腱、靱帯、関節包に存在する「固有受容器」というセンサーによって担われています。

特に足関節捻挫で最も損傷しやすい前距腓靱帯にあるメカノレセプター(機械的刺激を感じ取るセンサー)の大部分(約93%)は靱帯の付着部に集中しており、この部分の損傷によって固有感覚の低下が起こると考えられています。

固有感覚とは
麻多 聡史
院長

この記事を書いた人

アルコット接骨院院長
柔道整復師
フットケアトレーナーマスターライセンス、足爪補正士、テーピングマイスター、IASTMマニュアルセラピスト、FMS 、SFMA、FCS、BPL mentorship program修了、マイオキネマティック・リストレーション、ポスチュラル・レスピレーション、ペルビス・リストレーション、インピンジメント&インスタビリティ修了