野球肘は繰り返される投球動作が肘の関節にストレスを与えることで、肘の軟骨なんこつ・靭帯じんたい・筋肉や腱けんがいたんでしまう疾患です。スポーツ障害として多く見られます。

　体の硬さや姿勢の悪さ、あるいは技術的な問題（例えば、投球フォームの不良）により、胸の周りや肩甲骨、腕の動きがスムーズに行えなくなることがあります。これにより肘に負担がかかり、野球肘が発生することがあります。
　特に投球をする際には、肘に特定のストレスがかかります。肘の内側には引っ張られるような力（牽引ストレス）が、外側にはぶつかり合うような力（圧縮ストレス）がかかります。これらのストレスが繰り返し肘にかかると、野球肘の原因となります。
　正しい姿勢やフォームを保ち、体を柔軟に保つことが、肘の健康を守るために重要です。

　成長期の子どもの骨には特有の構造があります。骨の中央部分は「骨幹」と呼ばれ、筒状になっています。骨の両端には「骨端」があります。骨幹と骨端の間には「成長軟骨板」があり、ここで新しい骨が作られて骨が長くなります。
　幼少期の骨端には多くの軟骨が含まれており、その中央には「骨端核」と呼ばれる小さな骨の部分があります。このような構造により、成長期の骨は適切に成長し発達することができます。

骨の成長には４つの段階があり、それぞれの段階でケガのリスクが異なります。

この時期は、骨の端（骨端）がすべて軟骨でできています。軟骨は柔らかくて傷つきやすいので、衝撃を受けると簡単にダメージを受けてしまいます。

しばらくすると、軟骨の中に「二次骨化中心」が現れます。この骨化中心は風船のように膨らんでいき、骨端の軟骨が少しずつ骨に変わっていきます。この時期も、まだ軟骨が多いため、成長軟骨が傷つきやすいです。

この時期になると、骨端の軟骨は減り、成長軟骨板（骨端線）のみが残ります。この成長軟骨板が骨を長くするための重要な部分ですが、とても壊れやすいです。

骨の成長が終わると、成長軟骨板は消え、骨は完全に硬くなります。この段階では、骨そのものは強くなりますが、筋肉や腱（筋肉を骨に繋ぐ組織）、靱帯（骨と骨を繋ぐ組織）などの軟部組織が傷つきやすくなります。また、これらの組織が骨に付着する部分も弱くなり、ケガのリスクが高まります。

このように、成長の各段階で注意すべきポイントが異なります。それぞれの時期に応じた適切なケアと注意が大切です。

　骨端線閉鎖前（成長期）と骨端線閉鎖後（成人期）では、肘が受けるストレスに対する反応が異なります。肘にストレスがかかると、最も弱い部分（最脆弱部）から壊れていきます。この最脆弱部は年齢によって変わります。

　成長期の子供では、骨がまだ成長しているため、骨の端にある成長軟骨が最も弱い部分です。この成長軟骨は、骨が長くなるために必要ですが、衝撃やストレスに対して壊れやすい特徴があります。

　成長が止まり、骨が完全に硬くなると、最脆弱部は変わります。この時期には、筋肉、腱、靱帯、神経などが最も壊れやすい部分になります。これらの組織は、日常の動作やスポーツ活動中にストレスを受けやすく、けがの原因となることがあります。

　さらに年齢が進むと、体には別の問題が発生します。特に、関節が擦り減りやすくなるため、変形性関節症と呼ばれる関節の痛みや機能低下が起こることがあります。これは、関節の軟骨がすり減ることにより生じる病気です。

このように、成長期から成人期、そして加齢に至るまで、体の最も壊れやすい部分は変わっていきます。各時期に応じた適切なケアと注意が重要です。

肘関節には6つの骨端があり、それぞれで成長するタイミングが異なります。これらの骨端は、成長とともに軟骨から骨に変わりますが、その時期や速度は部位によって違います。

例えば、上腕骨小頭は、生後5ヶ月頃から骨の成長が始まります。成長はゆっくり進み、完全に骨に変わるのは12歳から14歳頃です。

一方で、上腕骨滑車や肘頭は、10歳から12歳頃に成長が始まり、2〜3年という比較的短期間で完全に骨に変わります。

骨の成長過程でどの時期に障害が起こるかによって、その後の状態や治りやすさが異なります。例えば、成長の初期段階で問題が起きると、長期間にわたる治療や影響が考えられます。逆に、成長がほぼ完了した後に問題が起きた場合は、比較的短期間での回復が見込まれます。

このように、肘の成長と骨化の過程は部位ごとに異なり、それぞれの成長時期や速度に注意が必要です。

　　成長期の野球肘と成人してからの野球肘は病態が異なるため注意が必要です。成長期における野球肘は骨や軟骨の障害が多く、内側型ないそくがた、外側型がいそくがた、後方型こうほうがたに分類されます。小学生の野球肘は内側型がほとんどで、中高生になると外側型が多くなります。骨の成長途中である成長期においては、筋肉や腱・靭帯の障害はあまり多くありません。
　成人期の野球肘は「骨・軟骨の障害」と「筋・腱、靭帯、神経といった軟部組織の障害」に分けられます。