
シンスプリントとは
「すねの内側に出る痛み」のことで、特にランニングやジャンプを繰り返す競技でよく見られます。
「シン(shin)」は脛、「スプリント(splint)」は副木、添え木。シンスプリントの痛みがまるで「脛が添え木で締めつけられているような感覚」であることから、この名称がついたと考えられています。
正式には「内側脛骨ストレス症候群」と呼ばれます。

内側脛骨ストレス症候群(MTSS)とは
「内側脛骨ストレス症候群(Medial Tibial Stress Syndrome;MTSS)」は、すねの内側が痛いという症状をまとめて呼ぶものです。
MTSSという言葉が指す範囲は、研究や文献によってさまざまな病態が含まれており、「これこそがMTSSだ!」という明確な病態の定義は存在しません。
つまり、「MTSS=ひとつの病気」ではなく、「複数の似たような状態の総称」と理解することが適切です。
病態 | 概要 |
---|---|
Periostitis | 骨膜炎 |
Tibial Stress Reaction | 疲労性骨障害 |
Muscular Overuse / Chronic Fatigue | 筋肉の使いすぎや慢性的な疲労による障害 |
Myofascial Overload | 筋膜過負荷 |
Tibial Stress Fracture | 脛骨の疲労骨折(軽度の骨損傷を含む) |
Chronic Exertional Compartment Syndrome | 慢性労作性コンパートメント症候群 |
骨膜炎(Periostitis)だけをMTSSとするもの、疲労骨折とコンパートメント症候群は除外し、それ以外の要素をMTSSとするもの、上記すべてを「MTSSの連続したスペクトラム」と捉えるものなどさまざまです。
シンスプリントのメカニズム
以前は「筋肉が骨膜を引っ張る(牽引ストレス)」ことが原因とされていましたが、現在では「骨自体へのさまざまな繰り返しのストレス」が主な原因と考えられています。
また、筋肉が直接骨膜を引っ張っているわけではなく、「筋膜を通じて骨膜に負荷がかかっている」と考えられています。

シンスプリントの原因
使いすぎ症候群の1つであり、ランニングやジャンプを繰り返し行うスポーツによくみられる疾患です。
運動量が急激に増える新入部員などに多く見られます。
次の要因がみられる場合は、さらに発症する危険性があります。
- 股関節や膝関節、足関節がうまく使えていない
- 多すぎる運動量
- 運動内容、運動量、フォームの変更
- 路面が硬い
- 薄いシューズ
- O脚、回内足、扁平足など
- ふくらはぎの筋肉の柔軟性低下
- 足首が硬い

シンスプリントの症状
- 走ってしばらくしてから痛みが出る
- 運動後も痛むが、休むと軽減する
- すねの内側に5cm以上の範囲で圧痛がある

シンスプリントのステージ
Stage 1〜2のうちは、無理なく調整すれば運動を続けることができます。
Stage 3〜4に入ってしまったら、運動の中止が必要です。しっかり治さないと、長期離脱や再発のリスクが高くなります。
Stage1 | 運動後のみの痛み |
Stage2 | パフォーマンスに影響しない運動時の痛み |
Stage3 | パフォーマンスに影響する運動時の痛み |
Stage4 | 安静時にも認める慢性的な疼痛 |

シンスプリントと疲労骨折
前述の通り、内側脛骨ストレス症候群(MTSS)は、脛骨の内側にかかるストレスによって起こるさまざまな病態を含みます。
近年では、MTSSを「疲労骨折へと進行する前段階の初期の障害」と考える見方が主流になりつつあります。
つまり、「MTSS」と「疲労骨折」は別の病気というより、連続した一つのケガの過程としてとらえる方が、より自然だということです。

すねの骨はねじれに弱い
脛骨は、以下のストレスに対して弱い構造になっています。
- 垂直方向の圧力(軸圧)
- 骨をたわませる力(曲げストレス)
- 骨をひねる力(ねじれストレス)

脛骨は、ひざ寄りよりも足首寄りのほうが、ねじれる力に対して弱い構造になっています。
ねじれストレスは、方向転換(切り返し)などの動作で足が大きく外側に向く時に発生します。
そのため、切り返しやジャンプの着地時などの動作を見直すためのトレーニングが重要です。

シンスプリントの治療法
シンスプリントは単なる筋肉の使いすぎではなく、骨への繰り返しの負荷とそれによる骨膜炎が合わさった障害です。そのため、「筋肉」だけでなく「骨」にも目を向けた評価と治療が、改善と再発予防のカギとなります。
- 患部の安静・アイシング
- 体外衝撃波(圧力波)治療
- 鎮痛処置:湿布や超音波治療など
- テーピング
- ストレッチ
- 筋膜リリース
- 靴合わせ・インソール療法
- 運動強度を段階的に戻すリハビリ
シンスプリントに対する体外衝撃波(圧力波)治療
拡散型体外衝撃波(圧力波)療法とは、日本ではまだ導入の少ない治療法ですが、近年、欧米を中心に注目されており、骨膜や筋・筋付着部に痛みのあるタイプのシンスプリントに有用といわれています。
圧力波(強い振動)を脛骨の圧痛部位へ当てることで、痛み(知覚神経)を麻痺させます。特に筋肉に痛みがある場合に高い効果が期待できます。組織の再生・治癒以外にも筋肉の緊張を和らげる効果もあるためオーバーユースの症例には効果を発揮します。
痛みを抱えながらも競技を続行したい選手にはおすすめの治療法です。

シンスプリントに対するインソール治療
シンスプリントは、かかとの骨(踵骨)が傾いてしまうことが原因のひとつです。
かかとの骨が「内側」に傾くと・・・
- 土踏まずがつぶれて扁平足になります。
- 土踏まずを支えるために、すねの内側の筋肉(後脛骨筋や長趾屈筋など)が無理に引っ張られたり、縮みすぎたりします。
- その結果、筋肉や骨膜に負担がかかり、痛みが出ます。
かかとの骨が「外側」に傾くと・・・
- 足が外に倒れ、走ったりジャンプしたりする時に、すねの骨の中でねじれ(回旋ストレス)が起きます。
- このねじれが、交差する部分の骨や筋膜に負担をかけて、痛みの原因になります。
インソールで負担を減らせます
- かかとの傾きを正しい位置にサポートすることで、筋肉や骨への負担を軽減できます。
- インソールを使って、土踏まずを支えたり、足の動きを整えたりすることが、シンスプリントの改善・予防に役立ちます。

シンスプリントに対する筋膜リリース
脛骨の内側や後ろ側には、たくさんの筋肉がくっついています。深い層と浅い層の筋肉が重なっていて、これらの筋肉は日常の動作やスポーツで大きな負担を受けています。
こうした筋肉や筋膜は、炎症が起きると“癒着”が起き、滑らかに動かなくなる「滑走障害」が生じます。
IASTM toolsが有効
シンスプリントでは筋膜を丁寧にリリース(癒着をはがす作業)することが重要です。筋膜の癒着や硬さを改善するには、IASTM tools(特殊な器具を使った筋膜リリースの手法)がとても効果的です。
IASTMを使うことで次のような効果があります。
- 硬くなった筋膜の癒着をはがれる
- 滑走性(筋肉が滑らかに動く力)が改善される
- 痛みや動きの悪さの改善が期待できる

シンスプリントに対するテーピング
全方向伸縮性素材「キノフィックス」を用いたテーピング方法をご紹介。
特に筋肉・筋膜によるシンスプリントの痛みに対して有効です。
