腰椎分離症とは
腰椎分離症は、腰椎の一部に疲労骨折が起きる疾患です。特に、成長期の小学生から高校生に多く見られます。この疲労骨折は、背骨の後ろ側にある「関節突起間部(pars interarticularis)」という部分に起こります。

成長期の2週間以上続く腰痛は要注意
日本では、成人の約6%(男性の8%、女性の4%)がこの分離症を持っているという調査結果があります。
また、2週間以上続く腰痛のある成長期の子どもたちを調べたところ、
- 小学生の46%
- 中学生の45%
- 高校生の30%
に腰椎分離症が見つかっています。そのため成長期の子どもや学生が「2週間以上腰が痛い」と訴える場合、腰椎分離症を疑う必要があります。

腰椎分離症の進行
腰椎分離症は、疲労骨折が起きてから完全に骨が離れてしまうまでに、次のような3つの段階(病期)に分けられます。
この分類によって、使用するコルセットの種類や固定期間が決まるため、正確な評価がとても大切です。
- 初期(early stage)
- ごく細いヒビ(ヘアライン状の骨吸収)が見える段階です。
- この段階であれば、適切な治療で骨が元通りにくっつく(骨癒合)可能性があります。
- 進行期(progressive stage)
- 骨に明らかなすき間(骨性ギャップ)ができてしまった状態です。
- ヒビが広がって、骨が離れかけている段階です。
- 終末期(terminal stage)
- 骨が完全に離れて「偽関節」という状態になった段階です。
- この段階になると、自然に骨がくっつくことはほとんど期待できません。

偽関節とは
本来は骨がくっつくべきところで、いつまでも骨癒合が起こらない状態を「偽関節」といいます。骨の治る仕組み(治癒機転)が途中で止まってしまい、骨折が自然には治らなくなっている状態です。
腰椎分離症終末期になると、骨が完全にくっつかず偽関節となり、骨の間に「軟らかい滑膜組織」が入り込みます。
この偽関節は必ずしも痛みを伴うわけではありませんが、滑膜に炎症(滑膜炎)が起こると痛みが出るようになります。

早期発見・早期治療がカギ
腰椎分離症では、骨がくっつく(骨癒合する)可能性は、病気の進み具合や使用するコルセットの種類によって大きく異なります。
各病期における骨癒合率
- 初期:94%
- 進行期(骨髄浮腫あり:炎症がある):64%
- 進行期(骨髄浮腫なし:炎症がない):27%
- 終末期:0%(骨癒合は期待できない)
Sairyo K, et al. Conservative treatment for pediatric lumbar spondylolysis to achieve bone healing using a hard brace: what type and how long? J Neurosurg Spine. 2012;16:610–614.
コルセットの種類による骨癒合率
コルセットの種類 | 骨癒合率 | 特徴 |
---|---|---|
軟性コルセット | 約25% | 動きの制限が弱い |
ライトブレース | 約47% | 中間の制動力 |
硬性コルセット | 約70% | 動きをしっかり制限する |
三橋彩乃,塚本友里子,寺門淳 ほか:小学生の腰椎分離症患者に対するコルセットの種類による骨癒合率調査.日臨スポーツ医会誌.

腰椎分離症の症状
腰椎分離症の治療では、「今の痛みはどこからきているのか?」を正しく理解することがとても大切です。
分離症は進行段階(病期)によって、痛みの出所や特徴が大きく変わります。
①初期の症状
- 痛みの原因:疲労骨折そのものによる痛み
- 痛みの特徴:
- 日常生活(座る・立つ・歩く)にはあまり支障がないことも多い
- 腰から太ももにかけて放散するような痛み
- 腰を反らしたり横に倒すと痛みが強くなる
- スポーツ中にだけ瞬間的な強い痛みが出る
- 安静にすれば軽くなる
②進行期の症状
- 痛みの原因:骨折部分がくっつかないまま長引いているための痛み
- 痛みの特徴:
- 安静にしても痛みが良くならない
- スポーツだけでなく、日常生活でも痛みを感じる
- 座る・立つ・歩くといった動作でも支障が出るようになる
③終末期の症状
- 痛みの原因
- 偽関節部に生じる滑膜炎
- 変性した椎間板(クッションの役割が弱くなる)
- 椎体終板炎(椎体の表面に起きる炎症)
- 神経の圧迫(すべり症が進行すると、神経根が狭い空間で押される)
- 痛みの特徴:
- 腰の鈍い痛みや脚へのしびれ・痛み(坐骨神経痛のような症状)
- 痛みは日常生活全体に影響し、長時間の立位・座位で悪化する
- ただし、滑膜炎が治まれば痛みが全くなくなるケースもある

腰椎分離症の原因
腰椎分離症は、次のような動きが繰り返されることで起きやすくなります:
- 腰を反らす動き(伸展)
- 体をひねる動き(回旋)
ジャンプ・反り・ひねりといった動作を繰り返す競技(野球・体操・バレーなど)で起こりやすく、腰への負担が蓄積されることが原因とされています。

腰椎分離症の検査
一般的なレントゲンでは、進行してしまった「進行期〜終末期の分離症」しか確認できません。成長期の腰椎分離症を正しく診断するためには、MRI検査が欠かせません。
とくに「STIR画像」という特殊なMRIを使うと、骨の中の炎症(骨髄浮腫)が映し出されるため、早期の異常も見つけやすくなります。
MRIで異常が見られた場合は、次にCT検査を行い、分離の進行度を詳しく確認して、治療方針を決めるのが一般的です。近年では、MRIでCTのような画像(bone-like image)を作り出す技術も出てきています。これにより、CTの被ばくを避けつつ診断を進めるという新しい選択肢も検討され始めています。

腰椎分離症の治療法
腰椎分離症の治療は、成長のステージ(骨の発達段階)によって方針が異なります。
小学生
- 骨がまだ軟らかく、すべり症に進行するリスクが非常に高い。
- 基本方針は骨をくっつけること(骨癒合)を最優先!
治療ポイント
- 硬性の体幹コルセットを使用し、腰の動きをしっかり制限。
- 保護者と本人ともに、「コルセット装着の重要性」をよく理解する。
- たとえ骨癒合が得られなくても、すべり症への進行を防ぐために装着は有効。

中学生
- 早期発見できれば、骨癒合の可能性あり。
- 小学生同様、できるだけ骨癒合を目指す。
治療ポイント
- 初期なら3か月、進行期なら6か月の装具装着+スポーツ中止が目安。
- 部活動の現役生活終了後にMRIで炎症(HSC)が残っていれば、そこからコルセット治療を開始するという選択肢もある。

高校生
- 骨の成長が終わっており、すべり症への進行リスクはほぼなし。
- 骨癒合は得られにくいため、早期の競技復帰を優先することが多い。
治療ポイント
- ライトブレース(軽めの装具)を使用しながら運動再開。
- 痛みをコントロールしながら競技に復帰する。

癒合までの期間
初期の段階で見つかった場合
骨がくっつく(=骨癒合)確率は 94% ととても高く、 おおよそ3か月で癒合が見込めます。
進行期まで進んでしまった場合
骨がくっつく確率は 64% に下がり、約6か月の治療期間が必要になります。
癒合しやすさは椎体の場所によっても異なります。
- 第3・第4腰椎 → 比較的骨癒合しやすい。
- 第5腰椎 → 癒合しにくい傾向がある。
また、片側の分離か、両側かも予後に影響します。

分離症がさらに進行すると
腰椎分離症が進行すると、背骨が前にずれてしまう「すべり症」という状態になることがあります。
特に成長期では、背骨の骨がまだ完全にできていないため、このすべり症に進行しやすいのです。

成長段階と「すべりやすさ」の関係
腰椎の成長状態は、以下の3つのステージに分けられます:
ステージ | 特徴 | 年代 |
---|---|---|
Cステージ(Cartilaginous stage) | 骨端(椎体の端の部分)がまだ軟骨のまま(骨化していない) | 小学生 |
Aステージ(Apophyseal stage) | 骨端に骨化が始まっているが、まだ一部軟骨が残っている | 中学生 |
Eステージ(Epiphyseal stage) | 骨化が終わり、完全に骨と癒合している | 高校生以上 |
すべり症のリスク
ステージ | すべり症(5mm以上)になる確率 |
---|---|
Cステージ | 約80%の高確率で発生 |
Aステージ | 約10%とかなり減少 |
Eステージ | ほとんどゼロ |
- 小学生(Cステージ)で腰椎分離症になると、すべり症に進行するリスクが非常に高い
- 中学生(Aステージ)では進行リスクは大きく減少
- 高校生以上(Eステージ)では、すべりの心配はほとんどない
➡ だからこそ、小学生で腰椎分離症が見つかったら、すべり症に進行しないように早期にしっかり対応することが大切です。

骨がくっつくだけでは不十分
分離症は骨癒合が得られた後も、再発率は10〜26%といわれています。重要なのは「なぜ腰に負担がかかってしまったのか」を見つけ出し、体の動かし方のクセや問題を改善することです。
骨癒合したからといってそのまますぐにスポーツ復帰してしまっては、再発リスクは高いままです。
アスレティックリハビリテーションが必要不可欠
「骨をくっつける治療」+「体の使い方を正すリハビリ」
この2つをセットで行うことで、再発を防ぎ、安全にスポーツに復帰することができます。
【装具療法を始めてから3週までの運動プログラム】
この時期は、腰の骨の関節部分に炎症が残っていて痛みを感じやすいため、痛みを引き起こさない範囲での運動が大切です。
ジャックナイフストレッチ
- 方法:椅子に座った状態で両足首をつかみ、胸と太ももを近づけたまま、ゆっくり膝を伸ばしていきます。
- 時間と回数:膝を伸ばしきったら10秒キープします。これを数セット行います。

【装具療法開始から3週間経過後の積極的運動プログラム】
3週間が経過する頃には、腰の痛みが軽減または消失してきます。ここからは、初期のストレッチや体幹トレーニングに加えて、より強度の高い運動療法を段階的に導入していきます。硬性コルセットを着けた状態で、背骨を中立の位置に保ちつつ、軽い負荷から始めます。
フロントブリッジ(プランク)
- うつ伏せの姿勢で、前腕とすねを床につけてキープ。
- 背中を反らせせず、まっすぐを保つのがポイントです。
- 腹筋と体幹の筋肉をバランスよく使います。

【段階的スポーツ復帰プログラム】
発育期の腰椎分離症は、治療に数か月かかるため、その間に体力や動きの機能が低下してしまうのは避けられません。MRIやCTで骨がくっついてきた様子が確認できても、すぐにスポーツを再開すると、再発するリスクが高いです。
そのため競技別の復帰プランを用意して段階的に運動量を増やし、約1か月かけて慎重に復帰することが重要です。
胸椎の伸展運動
- うつ伏せでひじを立て、胸を起こすように背中(胸椎)を伸ばします。

LIPUS
LIPUSとは「低出力パルス超音波(Low Intensity Pulsed Ultrasound)」のことで、骨のヒビや骨折を治す力を高める超音波の治療です。
医療機器として、多くの整形外科で使われています。低出力の超音波を、分離した腰椎に1日20分照射します。
これまでの研究では、進行期分離の症例で、保存療法だけでは50%の骨癒合率であるものがLIPUSを併用すると80%以上に上がったことが報告されています。中にはスポーツへの復帰時期が早くなった症例もあります。

よくある質問
- Q分離症の特徴的な症状はありますか?
- A
- 運動中の瞬間的な痛みが特徴
長時間の立ちっぱなしや座りっぱなしでは痛くならないが、スポーツなどの動作中に一瞬だけ鋭く痛む。 - 特定の動きで痛みが出やすい
腰を反らす(伸展)、横に倒す(側屈)といった動作で痛みが出ることが多く、前にかがむ(屈曲)動作では痛みが出にくい。 - 痛む場所は狭く、ピンポイントで鋭い痛み
腰全体が重く痛むのではなく、限られた部分に鋭い痛みを感じるのが特徴。 - 比較的早い段階で痛みが軽減する傾向
安静にしていると比較的早く痛みが引くことも多い。
- 運動中の瞬間的な痛みが特徴
- Qなぜ成長期に起きやすいのですか?
- A
成長期の骨はまだ柔らかく弱い(未成熟)
運動量が多く、負担のかかる動きが多い
成長軟骨板(骨の成長に関わる部分)が完成していないため、衝撃に弱い
このように、骨が完成していない状態で繰り返しの動きや衝撃を受けると、疲労骨折(=分離症)が発生しやすいのです。
- Qレントゲンで「骨には異常はない」と言われましたが、まだ痛がります。分離症の可能性はありますか?
- A
分離症の初期や進行期の段階では、レントゲンでは異常が映らないことが多いため、見逃される可能性があります。
反対にレントゲンではっきりと分離が確認できる場合、それはすでに骨が完全に離れてしまった終末期(偽関節)であることが多く、この段階では骨をくっつける(骨癒合)治療は間に合わないことがほとんどです。
- Q分離症になりやすいスポーツはありますか?
- A
野球、サッカー、バスケットボール、バレーボール、陸上競技などに多くみられます。いずれも「走る・跳ぶ・ひねる」動作が多い競技です。腰をそらす(伸展)、体をひねる(回旋)動きが多いスポーツで起こりやすいといわれています。
- Q男子と女子ではどちらに多いですか?
- A
腰椎分離症は男子に多くみられると報告されています。ある研究では高校生以下の患者のうち、約82%が男子で、男女比は4:1という結果も出ています。ところが、小学生の腰椎分離症では、男女の差があまり大きくない(小学生の男女比は約2:1程度)というデータもあります。
- Q分離症は再発しますか?
- A
腰椎分離症は、治っても再発する可能性がある疾患です。
骨がくっついたあとに、再び分離が起こったケースがいくつも報告されています。骨癒合した患者のうち26.1%に分離症が再発
三橋彩乃,塚本友里子,寺門淳 ほか:小学生の腰椎分離症患者に対するコルセットの種類による骨癒合率調査.日臨スポーツ医会誌.
骨癒合が確認された67例のうち、通院できた64例(86か所)の中で、9例・11か所(13%)に再発
辰村正紀,蒲田久典,武井隼児,ほか.腰椎分離症における保存療法後再発例の特徴.日臨スポーツ医会誌.2018;26:451–458.
骨癒合後の206例のうち、再び腰痛で来院した人にMRI検査を行った結果、21例(10.2%)に再発を確認
三宅秀俊,杉山伐哉,田中拓充,ほか.新鮮腰椎分離症骨癒合後の再発例の検討.日臨スポーツ医会誌.2022;30:372–379.
「また分離症と言われて、運動を止められるのが嫌」という理由から腰痛が再発しても受診していないことが考えられます。つまり、報告されている再発率(10〜26%)より、実際の再発率はもっと高い可能性があります。
- Q分離症は放置すると悪化しますか?
- A
分離症を放っておくと、骨がきちんとくっつかないまま動き続ける状態(偽関節)になってしまうことがあります。この状態になると、将来的に痛みが残ったり、腰椎がずれて分離すべり症に進行したりするリスクが高まります。
- Q分離症が治らないまま大人になったらどうなりますか?
- A
分離すべり症は、分離症が治らずに偽関節(骨がくっつかない状態)になったあとに、腰の骨がずれてしまうことをいいます。
骨がまだしっかりしていない年齢で分離症が完成してしまうと、小学生や中学生の時期は分離すべり症になるリスクが高いといわれます。成長とともに骨が成熟して成長軟骨が閉じると、高校生以上では分離すべり症になるリスクは低くなります。
- Qあまり痛くなくなりました。運動してもいいですか?
- A
初期の分離症は腰痛が軽微なことも多く、一時的に軽快することもあります。骨癒合を目指す場合は、MRIやCTで癒合が認められるまではしっかりと運動制限を続ける必要があります。
- Qどのくらいスポーツを休まなければいけませんか?
- A
小中学性で骨癒合を目指す場合、3〜6ヶ月スポーツ活動を中止する必要があります。
発見された時点で偽関節になっていて骨癒合が期待できない場合、痛みが軽減した段階でスポーツ活動を再開します。
- Qコルセットはずっとしていなければいけませんか?
- A
骨癒合を目指す場合、硬性コルセットを基本的に入浴以外の時間は1日23時間つけて過ごします。
分離症治療のその先へ ― 再発予防に向けたリハビリ
腰椎分離症からの復帰で大切なのは、再発を防ぐことです。当院では、治療中の固定期間だけでなく、その後の競技復帰までをサポートし、再発しにくい体づくりを目指したアスレティックリハビリを提供しています。
「治って終わり」ではなく、痛みの出ない体を作り、安心してスポーツを続けられる未来へ。再発予防を本気で考えるなら、ぜひ私たちにご相談ください。

医療 × トレーニングの融合で、腰痛からの競技復帰を全力サポート
トレーナー資格と柔道整復師、2つのライセンスを持つセラピストが、あなたの競技復帰まで徹底サポート。治療だけでなく、パフォーマンス向上と再発予防まで、専門知識と現場経験を活かしたアスレティックリハビリで支えます。腰椎分離症からの安心復帰ならお任せください。

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この記事を書いた人
アルコット接骨院院長
柔道整復師
フットケアトレーナーマスターライセンス、足爪補正士、テーピングマイスター、IASTMマニュアルセラピスト、FMS 、SFMA、FCS、BPL mentorship program修了、マイオキネマティック・リストレーション、ポスチュラル・レスピレーション、ペルビス・リストレーション、インピンジメント&インスタビリティ修了