アキレス腱障害は、アキレス腱に過剰な負荷がかかることで生じる痛みや炎症のことをいいます。スポーツ選手に多く見られますが、オフィスワーカーや中高年者にも発症することがあります。

特に、アキレス腱の踵に付着する部分から2～6センチの部分が痛くなりやすく、この部分は血流が少なく、回復が遅れることがあります。

アキレス腱障害には２つの種類があります。アキレス腱が踵にくっつく部分から約2センチ上を境に2つに分けられます。

①アキレス腱症：主にアキレス腱の真ん中部分に問題が起こります。

②アキレス腱付着部障害：アキレス腱が踵に付着する部分に痛みが出るもので、さらに「アキレス腱付着部症」と「踵骨（かかとの骨）の滑液包炎」という2つのタイプに分かれます。

アキレス腱付着部症と踵骨後部滑液包炎を区別するためには、触診をしっかり行う必要があります。

アキレス腱付着部痛の場合、踵のアキレス腱が付いている部分に圧痛（押すと痛い場所）があります。そこが赤く腫れていることが多く、中心から少し外側に痛みが出やすいです。

踵骨後部滑液包炎では、アキレス腱の付着部から少し上で、腱の前の部分に圧痛があります。両側から指で挟むと痛みが出ることが多く、この方法を「two finger squeezeテスト」と呼びます。踵の後ろに腫れや赤みが見られることもあり、これを「パンプバンプ」と呼ぶこともあります。

原因は次のようなものがあります。

・加齢
・遺伝
・基礎疾患（糖尿病や関節リウマチなど）
・肥満
・ステロイドなどの長期投薬外的要因
・トレーニング内容（走行距離や強度、坂道走行やクロスカントリーなど）
・未熟な技術
・ウォーミングアップおよびクーリングダウン不足
・不適切なシューズ

アキレス腱障害は人口の約2%の人が経験し、特にランニングなどのスポーツをしている人に多く発症します。

ランニングによる発症率が他の競技と比べても高くランナーの発症率は約7倍を超えると報告されています。

軽度の段階ではあまり目立った症状は現れません。一般的にレントゲン、MRI、超音波が使われます。レントゲンでは、腱が厚くなっている様子や、石灰化が見られることがあります。MRIでは、腱が厚くなっている部分や腱内の腫れが確認でき、特にT2強調画像でこれがはっきり映ります。

超音波検査は手軽で負担が少ないため、最近よく使われる方法です。腱が厚くなっている部分や、通常は整然としている線状の構造（fibrillar pattern）が乱れているか消えていることが見られます。カラードプラという技術を使うと、周りの組織から腱の中に新しい血管が入り込んでいる様子も確認できます。

・日常生活やスポーツ活動に支障が出ている場合は、痛みがある部分を安静に保ちます。
・運動後はアイシングを行います。
・痛みの原因となったトレーニングや運動内容を中止、または調整します。
・急な動きや気温が低い時に症状が悪化することがあるため、気温が低い場合には急な動作を避けるようにします。

・痛みが強く、跛行（びっこを引くような歩行）が見られる場合は、安静のためにサポーターで短期間の固定を行います。

・インソールにより踵を5〜10mm持ち上げることで、アキレス腱への負担を軽減します。また偏平足や内側に倒れやすい足の形（回内足）がある場合は、アーチサポートやウェッジを使って足のアライメントを補正します。

・ロッカー機能のある靴を使用すると、歩行時の踏み返しがスムーズになり、アキレス腱への負担が軽減されます。

近年では、遠心性収縮えんしんせいしゅうしゅくを取り入れたゆっくりとした動きや高い負荷をかけた運動療法が効果的とされており、アキレス腱に対して適切な負荷をかける訓練が推奨されています。

「遠心性収縮」とは、筋肉が力を出しながらも伸びていく動きのことを指します。例えば、踵上げの運動を行った際に、上げた踵をゆっくりと下ろす場面で筋肉が引っ張られながらも動きをコントロールしようとする場面で使われます。この動きは筋肉に負荷がかかるため、筋力トレーニングやリハビリにおいてもよく活用されます。

運動療法の流れとしては、まず組織の準備として、ふくらはぎの筋肉や皮下組織の滑らかさを改善し、負荷をかけない運動（OKC）を行います。

その後、アキレス腱の耐久力を向上させるために、体重をかけた状態での訓練（CKC）を行い、負荷を徐々に増やしていきます。

アキレス腱障害の運動療法は、最初は筋肉が動かないように力を入れる「静的な筋力トレーニング（等尺性収縮）」から始めます。等尺性収縮は筋力を強化するだけでなく、痛みの軽減にも役立ちます。

次に、筋肉を伸ばしながら動かす「遠心性収縮」に進みます。

遠心性収縮は、アキレス腱の障害に対して効果が高いとされる治療法です。この方法は傷んだアキレス腱に新しくできた余分な血管を減らし、正常な組織を作り直すのに役立つと考えられています。

※アキレス腱付着部障害の場合、足首を上に反らせるとアキレス腱とかかとの骨がぶつかることがあります。このため、段差を使わずに床から直接かかとを上げる方法がすすめられます。

これまで行ってきた運動をより速く行います。痛みが出なければ、強い負荷をかけるトレーニングとして、「プライオメトリクストレーニング」を行います。これは、筋肉にエネルギーを蓄え、素早く解放する運動です。

競技への復帰は段階的に行います。練習メニューは、アキレス腱への負担が少ないものから始めるとよいでしょう。この段階ではアキレス腱にかかる負荷が高くなるためプライオメトリクスエクササイズは中止しますが、等尺性収縮エクサササイズや低速高重量エクササイズは週に2回ほど続け、腱と筋肉をさらに強化していきます。

ランニングを行う場合は、まずは歩幅（ストライド）を狭くし、ピッチを増やして走ります。低速から始め、痛みが出ないように調整します。痛みがなく3回のジョギングができた場合、次回は5分ずつ延長していきます。

30〜40分間の低速ジョギングで痛みがないことが確認できたら、少しずつ歩幅を広げて走るようにします。速度は状態に合わせて調整しながら、無理なく進めていきます。

体外衝撃波治療は、痛みのある部分にある異常な神経終末や血管を減少させ、アキレス腱の修復に必要な新しい神経や血管の形成を促進すると考えられています。周囲の筋肉（ふくらはぎの筋肉や足底腱膜）にも使用でき、筋肉の張りを改善する目的でも広く利用されています。

アキレス腱の炎症の結果、アキレス腱がまわりの筋肉や皮膚、脂肪組織などとくっついてしまいすべりが悪くなってしまう障害があります。これを癒着障害といいます。
従来の治療法（消炎鎮痛剤・従来の電気治療）では、このような癒着障害には効果があまりみられないことがわかってきました。
当院ではリハビリテーションの先進国である欧米より、IASTM（Instrument-Assisted Soft-Tissue Mobilization）を取り入れ治療に当たっています。
IASTMは癒着障害を見つけ出し、治療することができる革新的なツールです。

LIPUS（低出力超音波パルス）は、1秒間に150万回の振動刺激を傷んだアキレス腱に照射し、腱の修復と再生を促進します。この治療法では、超音波が細胞の活動を活性化し、血流を増やすことで、アキレス腱への酸素や栄養分の供給が向上します。

低出力の超音波が細胞を刺激して腱の修復を助け、新しい血管やコラーゲン繊維の形成をサポートします。これにより、傷ついたアキレス腱が早く修復され、痛みの軽減や炎症の抑制につながります。また、治療中の負担が少ないため、長期間の使用も可能で、腱の慢性的な障害にも適しています。

使用するテープは50mmの伸縮テープです。テープの半分が踵の中央を通るようにやや斜めにテープの端を貼り付け、その後ふくらはぎの外側に向かうようにテープを貼ります。

同じく踵部分にやや斜めにテープを貼り始め、ふくらはぎの内側に向かうようにテープを貼ります。

最後は踵からふくらはぎの真ん中を通るようにまっすぐとテープを貼ります。