膝蓋骨（膝のお皿）は、生まれてすぐは柔らかい軟骨でできていて、成長するにつれて硬い骨に変わっていきます。5歳頃から複数の小さな骨化核が癒合し1つの骨になるはずですが、まれに完全にくっつかずに分かれたままの状態になることがあります。これが「分裂膝蓋骨」です。

ほとんどの場合、分裂があっても痛みを感じることはなく、レントゲンでたまたま見つかるだけで治療の必要はありません。分裂膝蓋骨が痛みを引き起こすのは実は全体の1〜2％にすぎません。しかしスポーツや激しい動きで膝に負担がかかると、分裂した部分に痛みが出ることがあります。この痛みが出る場合、「有痛性分裂膝蓋骨」として治療が必要になることがあります。

分裂する原因として繰り返し膝を伸ばす動きによる負担が原因と考えられており、特に太ももの前の筋肉（大腿四頭筋）の引っ張る力が関係しているとされています。

痛みが出る要因としては使いすぎや過去のケガがあります。痛みは、徐々に悪化することもあれば、ケガをきっかけに急に出てくることもあります。

膝蓋骨の分裂部分にかかる負担を減らすためには、膝の位置や体のバランスも考える必要があります。

特に膝が外向きでつま先が内向きの姿勢（knee out-toe in）は、外側の筋肉が緊張してしまい、分裂部分により強い負担をかけます。そのため、外側の筋肉や組織を柔らかくすることに加えて、体のバランスや姿勢を見直して改善することが大切です。

スクワット動作を行う際に骨盤が後ろに傾いた状態（骨盤後傾位）になると、外側広筋の筋活動が増えてしまいます。これにより、膝蓋骨の外側に強い引っ張りがかかり、分裂膝蓋骨への負担が大きくなります。

特に、外側広筋の緊張が高まると、分裂した骨片がさらに引っ張られて離れる力が働き、痛みが悪化する可能性があります。そのため、分裂膝蓋骨の負担を軽減するためには、骨盤を正しい位置に保ち、外側広筋に余計な緊張がかからない姿勢でスクワットを行うことが重要です。

膝の分裂の形状によって、レントゲン写真をもとに3つのタイプに分類されます（Saupe分類）。

その中でも膝蓋骨の外側上部に分裂があるタイプがもっとも多く、全体の75%を占めます。特にこのタイプは痛みを引き起こしやすいとされています。治療は保存療法で改善することが多いです。

分裂膝蓋骨において、特に外側にある分裂部分（SaupeⅢ型）は、膝の痛みを引き起こしやすいといわれています。特にⅢ型は痛みが強くなりやすく、骨が自然にくっつきにくいと報告されています。

この痛みの原因は、太ももの外側の筋肉（外側広筋）が膝蓋骨の分裂部分を引っ張ることで、分裂した骨片が離れてしまうことだと考えられています。また、膝を曲げたときに、太ももの骨（大腿骨）からの力が分裂部分に影響を与え、痛みがさらに増すこともあります。

さらに、膝の外側の組織（外側支帯や腸脛靭帯など）が硬く緊張していると、分裂部分への引っ張る力が強くなり、痛みが悪化することがあります。そのため、これらの外側の組織を柔らかくすることが重要です。

運動療法で膝の外側の組織を柔軟にし、裂部分への負担を減らすことで痛みの改善が期待できます。

膝蓋骨や周囲の組織の状態をリアルタイムで観察できるため、分裂膝蓋骨に対してエコー検査は大変有用です。骨の分裂部分がどの程度離れているかや、炎症の有無を確認することができます。

また、分裂部にかかる腱や筋肉の動きを観察することもできるため、運動によって負担がかかる様子を把握しやすいです。これにより、痛みの原因や負担のかかり方を詳しく調べることができ、適切な治療計画を立てるのに役立ちます。

拡散型体外衝撃波治療は、痛みを軽減し自然治癒力を高める効果があります。体外衝撃波は、分裂部に対して深く浸透する衝撃を与え、血流を改善します。組織の回復を促進し、分裂部への負担を減らしながら痛みを和らげることが期待できます。

エコーを使って膝蓋骨周囲の組織や分裂部を正確に確認しながらハイボルテージによる電気刺激を行うことで、痛みの原因となっている炎症や筋肉の緊張を的確に緩和できます。電気刺激によって血流が改善され、組織の修復が促進されるとともに、痛みが軽減される効果が期待できます。

この治療法は、安全かつ効果的に分裂膝蓋骨の痛みを和らげる方法として、多くの患者さんに活用されています。

超音波が深部の組織にまで到達し温熱効果を発揮することで、血流を促進し組織の回復を助けます。この温熱効果により炎症が軽減され、分裂部にかかる筋肉や腱の緊張が和らぎます。痛みの緩和と組織の修復が促され、症状が改善しやます。

分裂膝蓋骨に対してフォームローラーを使った外側広筋と大腿筋膜張筋のセルフマッサージが有効です。

外側広筋は膝蓋骨の外側に付着しており、緊張が強いと膝蓋骨を外側に引っ張る力が増し、分裂部への牽引ストレスが高まります。フォームローラーを用いてマッサージすることで、筋緊張がほぐれて柔軟性が向上し、膝蓋骨にかかる負担が減少します。

使用するテープは幅50mmのキネシオテープです。

膝蓋骨の上外側から外側広筋に沿ってテンションをかけながら貼付します。

１本目から１／２ずらして２本目を貼ります。テンションのかけ方は１本目と同じです。

外側広筋を直上から圧迫するテープを貼ります。テープの下半分を膝蓋骨に押し当てるように貼るのがコツです。

同じ箇所にもう１本重ねて貼ることで圧迫力を増強させます。

１／３ほどズラしてさらに圧迫テープを２本貼ります。これにより外側広筋による分裂部を牽引するストレスを緩和できます。

最初のサポートテープは外側広筋の過剰な緊張を抑制するテープです。

次の圧迫テープは外側広筋の牽引力を抑えるためのテープです。しっかりと圧迫することが大切です。