腰椎椎間板ヘルニアのリハビリ

症例紹介FV(スマホ)

腰椎椎間板ヘルニアとは

腰椎椎間板ようついついかんばんヘルニアとは、背骨のクッション役である「椎間板ついかんばん」が傷み、中身が後ろに飛び出して神経を刺激する状態のことです。

背骨の骨と骨の間には、衝撃を和らげるクッションがあります。これが椎間板です。
この椎間板に前かがみ姿勢や重い物を持つ動作などの強い負担が繰り返しかかると、中の柔らかい部分が外に押し出されてしまいます。これが椎間板ヘルニアです。

どんなスポーツに多い?

椎間板ヘルニアが起こりやすいスポーツには、いくつかの共通点があります。
たとえば、

  • 腰を丸める動作(前屈ぜんくつ)が多い
  • 体を強くひねる動作(回旋かいせん)がある
  • 重い負荷やジャンプなどの衝撃がかかる
  • 同じ動きを何度も繰り返す

といった特徴です。

これらが重なると、腰のクッションである椎間板の中の圧力が高くなります。すると、椎間板の中心にある「髄核ずいかく」という柔らかい組織が後ろへ押し出されやすくなります。
その状態が続くと、周りを包んでいる「線維輪せんいりん」に小さな亀裂が入り、やがて髄核が外へ飛び出してしまいます。これが「椎間板ヘルニア」です。

① 野球(特に投手・打者)

  • 投球動作での強い体幹回旋
  • 反復する側屈+回旋ストレス
  • 打撃時の急激な体幹回旋
  • 前かがみ姿勢でのプレー
  • 椎間板後外側に剪断力せんだんりょくが集中しやすい
腰椎椎間板ヘルニアが起こりやすいスポーツ(野球)

② サッカー

  • キック動作での体幹回旋
  • 急停止・急旋回の反復
  • 接触プレーによる瞬間的負荷
  • L4/5、L5/S1レベルに負荷が集中しやすい。
椎間板の構造

③ バレーボール・バスケットボール

  • ジャンプと着地の反復
  • 体幹伸展と回旋の組み合わせ
  • 繰り返される衝撃負荷
  • 衝撃+伸展回旋ストレスが椎間板に加わる。
腰椎椎間板ヘルニアが起こりやすいスポーツ(バスケ・バレー)

④ ウエイトリフティング・パワーリフティング

  • 高重量負荷
  • 前かがみ姿勢での挙上動作
  • フォーム崩れによる椎間板内圧ついかんばんないあつ急上昇
  • 重量+前屈は椎間板内圧を急激に上げる。
腰椎椎間板ヘルニアが起こりやすいスポーツ(ウェイトリフティング)

⑤ テニス・ゴルフ

  • 体幹回旋の反復
  • 片側への繰り返し負荷
  • 回旋+前かがみ姿勢
  • 椎間板後外側に慢性的なストレスが蓄積。
腰椎椎間板ヘルニアが起こりやすいスポーツ(テニス)

原因となる腰の姿勢

  • 腰を丸めた後弯位こうわんいでは、椎間板内圧が大きくなり、椎間板の中の髄核は後方へ移動します。
  • 反対に、軽く反った生理的な姿勢(軽度前弯位ぜんわんい)では内圧は比較的低くなります。
  • 立っているときより座っているときの方が内圧は高くなります。
腰椎椎間板ヘルニアが起こりやすい腰の姿勢 (1)

腰椎の前弯と後弯とは?

生理的前弯位

  • 本来あるべき自然な腰の反り
  • 横から見ると、腰は少し前にカーブしています
  • 背すじを自然に伸ばして立っている姿勢
  • お腹とお尻のバランスが取れている
  • 自然なカーブは、体重や衝撃を分散するための「クッション」の役割をしています。つまり、腰にとって一番負担が少ない姿勢です。
腰椎の生理的前弯位とは

後弯位

  • 腰が丸くなっている状態
  • 猫背や前かがみの姿勢
  • 椅子に浅く座って背中が丸くなった状態
  • 長時間スマホやパソコンを見ている姿勢
  • 腰のカーブが逆向きに丸くなると、椎間板への負担が大きくなります。この姿勢が続くと、腰痛や椎間板ヘルニアの原因になりやすくなります。
腰椎の後弯位とは

原因となる動作

前かがみ

  • 前かがみ姿勢では、上半身の重心が腰より前に移動します。
  • するとテコの原理が働き、背中の筋肉の負担が増える、腰椎にかかる力が増大するという状態になります。
  • すでに腰が前屈していると、椎間板内圧はさらに急激に上昇します。
腰椎椎間板ヘルニアが起こりやすい動作

重い物を持つ

  • 重い物を持ち上げる動作では、椎間板に強い圧力が加わります。
  • 特に、前かがみ姿勢、腰を丸めた状態で持ち上げると、椎間板への負荷はさらに大きくなります。
腰椎椎間板ヘルニアが起こりやすい動作2

発症の仕組み

このように、腰椎の後弯位、前かがみ動作、重量物の挙上による負荷が繰り返し加わることや、強い負荷が一度に加わることによって、後方へ移動した髄核が線維輪を破り、後ろに飛び出してヘルニアが発症すると考えられています。このメカニズムを理解することは、リハビリテーションや再発予防を考えるうえで非常に重要です。

なぜ痛いのか?

① 椎間板が傷つき、髄核が外へ飛び出す

椎間板は外側の「線維輪」と内側の「髄核」でできています。強い負荷や変性により線維輪が裂けると、髄核が外に出ます。

② 髄核が神経に触れる

髄核は本来、体の外から隔離された組織です。それが脊柱管せきちゅうかんや神経の近くに出ると、体は異物のように認識します。

③ 免疫反応が起こり炎症が発生する

体を守るために炎症反応が起こり、以下の状態に陥ります。

  • 炎症細胞えんしょうさいぼう(マクロファージなど)が集まる
  • 炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-1β など)が放出される
  • 神経周囲がれて敏感びんかんになる

④ 神経が刺激され、強い痛みやしびれが出る

炎症によって以下の反応が起こるため、腰だけでなく脚の痛みやしびれ(坐骨神経痛ざこつしんけいつう)が起こります。

  • 神経がむくむ
  • 血流が低下する
  • 神経の働きが悪くなる
椎間板ヘルニアの炎症について

ヘルニアは手術しなくても治る?

腰椎椎間板ヘルニアは、多くの場合すぐに手術をせず、まず保存療法(リハビリ)を行います。
一般的に、約7割の人は3〜6か月以内に症状が軽くなるといわれています。

腰椎椎間板ヘルニアの痛みやしびれは、飛び出したヘルニアによる神経の圧迫と、椎間板や神経まわりの炎症の両方が関係しています。

安静にすると症状が改善するのは、ヘルニアそのものがすぐに治るからではなく、炎症が落ち着くためと考えられます。このような理由から、まずは手術ではなく保存療法(リハビリ)を行うことが基本になります。

椎間板ヘルニアと痛みの関係 (1)

デッドリフトを用いた腰椎椎間板ヘルニアのリハビリ

椎間板ヘルニアのリハビリにデッドリフトが役立つ理由

デッドリフトというと「重いバーベルを持ち上げるトレーニング」というイメージがありますが、正しい方法で行えば、腰のリハビリにも役立つ動きです。

ただし大切なのは、重いものを持つことではなく、体の正しい使い方を身につけることです。

① 腰を守りながら体を使う練習になる

椎間板ヘルニアでは、腰が丸まった状態で力がかかると、腰に負担がかかりやすくなります。

正しいデッドリフトでは

  • 背骨はまっすぐ保つ
  • お腹や背中の筋肉で体幹を固める
  • 股関節と脚の力で持ち上げる

という動きになります。つまり、腰を守りながら体を使う練習になるのです。

デッドリフト(腰を守りながら動く)

② 腰ではなく「股関節」を使う動きを学習

ヘルニアの方は、物を拾ったり持ち上げたりするときに腰を曲げて動いてしまうクセがついていることがあります。

デッドリフトを正しく行うと

  • 腰ではなく股関節から体を曲げる
  • 腰はまっすぐ保つ

という動きが身につきます。

デッドリフト(腰ではなく股関節で動く)

③ 腰を支える筋肉が強くなる

腰を安定させるには

  • 腹筋
  • 背筋
  • お尻の筋肉
  • 太ももの筋肉

などがバランスよく働く必要があります。

正しいデッドリフトでは、これらの筋肉が協力して働くため、腰を支える筋肉の強さと持久力を高めることができます

デッドリフト(腰を支える筋肉の強化)

④ 「動くのが怖い」という不安を減らせる

ヘルニアと診断された方は

  • 動くとまた痛くなるのでは
  • 物を持つのが怖い

という不安を感じる人が多くいます。

軽い負荷から安全に体を動かしていくことで、「腰を守りながら動かせる」という自信がついていきます。

⑤ スポーツや仕事への復帰につながる

デッドリフトは

  • 物を持つ
  • 床から持ち上げる
  • 力を出す

という、実際の生活や仕事に近い動きです。そのため、回復が進んできた段階で行うとスポーツや仕事に戻る準備としても役立ちます。

デッドリフト(スポーツへの応用)

正しいデッドリフト

① スタンスを作る

足の位置

  • 足幅:腰幅〜肩幅(スクワットよりやや狭めの足幅
  • つま先:やや外向き(膝を外に押し出す)
  • 足裏:母趾球・小趾球・踵の3点で床を押す

バーの位置

バーは最初から最後まで、足の中心の真上をまっすぐ動くが理想です。
そのため、最初のバーの位置がとても重要です。

  • 母趾球の上
  • すねの約3cm前
デッドリフトの開始肢位

膝を外に押し出す意味

膝を少し外に押し出すことで

  • 股関節外旋筋群
  • 内転筋群
  • 股関節伸展筋群

が働きやすくなります。

その結果

  • 背中の角度を保ちやすい
  • 股関節伸展がしやすい
  • バーをまっすぐ引きやすい

というメリットがあります。

デッドリフト(膝を外に押し出す)

② グリップを決める

グリップ

バーを握るときは、膝を曲げてしゃがむのではなく、股関節から前屈して握ること。
そしてこの段階で、バーを動かさないことが大切です。

  • 手幅:肩幅よりやや広い(脚に近いが、親指が脚をこすらない程度)
  • 膝の外側でバーを握る
  • 基本:プロネイティッドグリップ(順手)
  • 重い場合:オルタネイティッドグリップ
デッドリフトの開始肢位(グリップ)

体幹の筋肉は「体を動かす」より「安定させる」

デッドリフトでは体幹の筋肉がアイソメトリック収縮(等尺性収縮)で働きます。

主に働く筋肉

  • 脊柱起立筋
  • 広背筋
  • 腹直筋
  • 腹斜筋
  • 肋間筋

これらが体幹を固定することで力を伝える役割を担います。背中の筋肉は、背中を起こすための筋肉ではなく、最初から最後まで姿勢を固定する筋肉として働くことが大切です。

デッドリフトにおける体幹の筋肉の役割

③ 膝を前に出す

  • グリップを決めたら、膝を前に出してすねをバーに触れさせる
  • このときもバーは動かさない
  • 腰を落としすぎない
  • 膝はやや外へ向ける

ここでやるのは「膝を前に出すこと」であって、しゃがみ込むことではありません。

デッドリフトの開始肢位3

足の中心でバランスを取る

デッドリフトでは、スクワットのようにバーベルが身体の真上にあるわけではありません。バーベルは身体の前にあります。

そのため重要なのは、身体+バーベル全体の重心を足の中心で保つことです。

次の条件がそろうと最も効率よく引けます。

  • バーベルは足の中心の真上
  • そのまま鉛直に上がる
  • 重心が足の中心から大きくズレない
デッドリフト(足の中心でバランスをとる)

④ 胸を張る

  • 胸:張る(チェストアップ)
  • 背中全体を伸ばして固定する(ニュートラル)
  • 肩甲骨:下制+内転
  • 頭:脊柱と一直線
  • 腰を落とさずに、背中の正しい姿勢を作る
  • 視線は3.6〜4.5m前の床
  • 股関節は肩より低い位置
  • 肘:完全に伸ばす
  • 肩:バーの真上かやや前

肩甲骨を強く寄せることではなく、脊柱を安定させることです。

デッドリフトの開始肢位(胸を張る)

⑤ 挙上する

  • 踵:床につける
  • バーを引く前に大きく息を吸う
  • バーを脚に沿わせたまま引き上げる
  • バーは床からトップまで体から離さない
  • 膝・股関節を伸ばして立ち切る
  • 最後は胸を張るだけ
デッドリフト(挙上)

正しい引き始めの姿勢

  • 肩甲骨・バーベル・足の中心が一直線に並ぶ
  • 背中は自然な位置で固定
  • 肘はまっすぐ
  • 足裏全体で床を踏む

これにより脚と股関節で生み出した力を、背中→腕→バーベルへ効率よく伝えることができます。

デッドリフトの開始肢位(引き始め)

足とバーベルの位置関係が崩れると・・・

バーベルが足の中心より前にある状態で引き始めると、

  • 足の中心とバーベルの間にモーメントアーム(てこの距離)が生まれる
  • バーベルを引くのに余計な力が必要になる
  • 股関節や背中の角度も崩れる

つまり、身体が前後に揺れる、バーが前に出る、曲線を描くことになり、余計なエネルギー消になります。バーベルが身体から前に離れるほど効率の悪いデッドリフトになります。

デッドリフト(バーと足が離れると)

引き始めでは「膝が伸びる」が「背中の角度は変わらない」

正しいデッドリフトでは、バーが床を離れてから膝あたりまでは

  • 膝は伸びる
  • 股関節角度は少し開く
  • 背中の角度はほぼ変わらない

という流れになります。

デッドリフト(引き始め)

腰だけ先に上がるのはNG

よくあるエラーが、バーが床から離れる前に腰だけ先に上がることです。

この場合は

  • 膝だけ先に伸びる
  • 背中がより水平に近づく
  • 大腿四頭筋がうまく使えない
  • 股関節伸展筋群に負担が集中する
  • バーが前に離れやすい

という脚で押せず、背中とお尻だけで無理やり引くという非効率な動きになります。

デッドリフト(引き始め)NG例

なぜ肩はバーの少し前に来るのか

デッドリフトでは、引き始めで肩はバーの少し前に位置します。これはとても重要な特徴です。この位置が最もバランスが良く、広背筋が働きやすいからです。

広背筋の役割

  • 上腕骨を後ろに引く
  • バーベルを身体側へ引きつける
  • バーが前に離れないようにする
  • 軌道を鉛直に近づける
デッドリフトの開始肢位(腕は垂直ではない)

立ち上がった姿勢

デッドリフトのトップでは、

  • 胸を張る
  • 膝を伸ばす
  • 股関節を伸ばす
  • 腰椎は自然な位置

これらが同時に揃うことが大切です。

注意点

  • 肩をすくめる
  • 肩を過剰に後ろへ引く
  • 腰を反らせすぎる
  • 上体をのけ反らせる
デッドリフトの開始肢位(挙上位)

⑥ 下降する

  • 上げる動作の逆順で下ろす
  • バーは太ももに沿ってまっすぐ下ろす
  • 背中は最後まで丸めない
  • 膝が先に前に出すぎない
  • バーが膝を過ぎてから床へ下ろす

注意点

下ろすときに

  • 背中が丸まる
  • 膝が先に前へ出る
  • バーが前に離れる

という崩れ方は非常に多く、腰痛の原因になります。

デッドリフトの開始肢位(下降時の注意点)

デッドリフトの注意点

ここで大切なのは、重い重量を持つことが目的ではないということです。

重すぎる負荷は腰への圧力や負担を大きくします。

リハビリで重要なのは

  • 腰をまっすぐ保つ
  • 股関節を使う
  • 軽い負荷から始める
  • 段階的に負荷を増やす

という正しい体の使い方を学ぶことです。

デッドリフトは静止状態から力を出す種目

デッドリフトは完全停止(デッドストップ)から始まる種目です。

スクワットやベンチプレスは下ろす(エキセントリック)→挙げる(コンセントリック)という流れがあります。

ベンチプレス・スクワットの特徴

しかしデッドリフトはいきなりコンセントリック収縮から始まるため、伸張反射や弾性エネルギーの助けがありません

つまり最も不利な状態から力を出す種目です。

デッドリフトの特徴

デッドリフトで最も大切なのは「背中の姿勢」

デッドリフトでは多少の細かいミスがあっても大きな問題にならないことはありますが腰が丸まることだけは安全性に大きく関わる重要なエラーです。

つまり、デッドリフトで最優先に覚えるべきことは、背中を正しい姿勢で保つことです。

注意点

  • 腰が丸まらない
  • 腰を反りすぎない
  • 背骨の自然なカーブを保つ
デッドリフト(正しい背中の姿勢)

なぜ初心者は腰が丸まるのか

初心者が腰を丸めてしまう大きな理由は、自分では腰が丸まっていることに気づけないからです。腕や膝は見えるので動きが分かりやすいですが、下背部は自分の目では見えにくく、感覚もつかみにくい部位です。

つまり必要なのは、正しい姿勢を知ることだけでなく、その姿勢を“感じ取れるようになること” です。

デッドリフトNG例(背中が丸まる)

背中の姿勢を作る感覚

背中の正しい姿勢を作るには、次の3つがポイントです。

  • 胸を張る
  • お尻を後ろに突き出す
  • 下背部の筋肉(脊柱起立筋)を収縮させる
デッドリフト(背中の姿勢を作る感覚)

毎レップ、姿勢を作り直す

デッドリフトは1回ごとに地面から始まり、地面で終わる種目です。

そのため毎回

  • 呼吸を整える
  • 背中の姿勢を作る
  • 体幹を固める
  • 正しいスタート姿勢を確認する

必要があります。

背中は毎回リセットする

セット中に背中が少しでも丸まり始めたら、床で一度リセットして正しい姿勢を作り直す必要があります。

悪い姿勢のまま次のレップに入ると、

  • 丸まった背中がそのまま続く
  • エラーが修正できない
  • 腰部ストレスが増える

という悪いトレーニングになりやすいです。

麻多 聡史
院長

この記事を書いた人

アルコット接骨院院長
柔道整復師
フットケアトレーナーマスターライセンス、足爪補正士、テーピングマイスター、IASTMマニュアルセラピスト、FMS 、SFMA、FCS、BPL mentorship program修了、マイオキネマティック・リストレーション、ポスチュラル・レスピレーション、ペルビス・リストレーション、インピンジメント&インスタビリティ修了