
下腿慢性コンパートメント症候群について(原因と症状)
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下腿慢性コンパートメント症候群について(原因と症状)
下腿慢性コンパートメント症候群とは
運動すると、すね〜ふくらはぎの筋肉は血流が増えて一時的にふくらみます。ところが筋肉を包む筋膜はあまり伸びないため、筋肉が入っている「区画(コンパートメント)」の中の圧が上がりすぎることがあります。すると血流や神経が圧迫され、運動中だけ痛みやしびれが出る状態が、下腿慢性(労作性)コンパートメント症候群です。

起きやすいスポーツ
- ランナー
- サッカー、ホッケー、スケートなどの競技者
- 成長期〜若年のアスリート
「運動をやめると楽になるが、再開すると同じ痛みが出る」このような症状を繰り返している方は、下腿慢性コンパートメント症候群の可能性があります。

下腿コンパートメントとは?
下腿コンパートメントとは、膝から足首までの下腿(すね〜ふくらはぎ)にある、筋肉・神経・血管がまとめて入っている区画のことです。これらの区画は、筋膜という硬めの膜で仕切られており、簡単には伸びません。
下腿にある4つのコンパートメント
- 前方コンパートメント:すねの前側。足首を上げたり、つま先を反らす筋肉が入る。
- 外側コンパートメント:すねの外側。足首を外に向ける動きに関与。
- 浅後方コンパートメント:ふくらはぎの表層。つま先立ちなど、足首を下に動かす筋肉。
- 深後方コンパートメント:ふくらはぎの奥。足の安定や土踏まずの支持に重要。

症状
- 運動中にすねやふくらはぎが張る・締め付けられるように痛む
- 一定の時間・距離・運動強度に達すると毎回同じように症状が出る
- 運動を続けるほど痛みが強くなる
- 運動をやめると数分〜1時間以内に症状が軽くなる/消える
- 灼ける感じ・ズキズキ・けいれん様の痛み
- しびれやピリピリ感が出ることがある
- 足に力が入りにくい/重だるい
- 走ると足先が上がりにくい、足が「ペタッ」と落ちる感じがすることがある
- 見た目に筋肉が盛り上がる(膨らむ)ことがある
- 安静時はほぼ症状がない

間違えやすい疾患
- シンスプリント(脛骨内側部痛症候群):すねの内側が広く痛む。運動後も痛みが残りやすい。
- 疲労骨折(脛骨・腓骨):一点が強く痛む。安静時や押したときも痛いことが多い
- 肉離れ・筋損傷:急な動きで発症。運動中だけでなく日常生活でも痛む
- アキレス腱障害:腱に沿った痛み。動き始めや運動後に強い
- 末梢神経障害:しびれ・ 感覚異常 が中心。特定の神経の走行に一致
- 腰椎由来の神経症状:下腿以外にも症状が出る
- 閉塞性動脈硬化症(PAD):歩くと痛み、休むとすぐ改善(血流の病気)
- 膝窩動脈捕捉症候群(PAES):若いアスリートにも起こる血管性の運動時痛
- 深部静脈血栓症(DVT):安静時も腫れ・熱感あり。運動と直接関係しない
- 筋膜ヘルニア:力を入れたときに筋肉がポコッと膨らむ

原因
① 筋膜が硬く、伸びにくい
筋肉は筋膜という薄くて丈夫な膜に包まれていますが、この筋膜はもともとあまり伸び縮みしない性質を持っています。
筋膜が硬い・厚い人や、加齢や繰り返される小さな外傷によって筋膜の柔軟性が低下している場合には、運動によって筋肉が膨らんだ際に、その膨張を十分に受け止めることができません。
結果として、筋肉が入っているコンパートメントの中の圧力が上昇し、痛みや張りなどの症状が生じます。

② 運動による筋肉の膨張
運動を行うと、筋肉の体積は最大で20%以上増加することがあります。特に、筋肥大が強い人や短期間で運動量・強度を急激に増やした人では、この体積増加の影響がより大きくなります。
しかし、筋肉が収まっているコンパートメントは簡単には広がらないため、筋肉だけが大きくなり、入れ物である「部屋」は広がらない状態が生じます。その結果、コンパートメント内の圧力が上昇し、血流や神経が圧迫されて痛みや違和感が起こります。

③ 静脈の血液が戻りにくくなる(静脈還流障害)
運動中は筋肉が収縮と膨張を繰り返すため、筋肉によって静脈が圧迫されやすくなります。その結果、血液が心臓へ戻りにくくなり、血液や水分がコンパートメント内に滞留しやすい状態が生じます。
この状態が続くとコンパートメント内の圧力はさらに上昇し、筋肉や神経への血流が低下して酸素不足(虚血)を引き起こします。近年では、このような静脈の血流障害を中心とした血管要因が、下腿慢性コンパートメント症候群の発症に深く関与している重要な原因の一つとして注目されています。

④ 繰り返されるオーバーユース
ランニングやジャンプ、ダッシュ、長時間の歩行などの同じ動作を繰り返す運動を継続すると、特定の筋肉に負担が集中しやすくなります。さらに、練習量・頻度・強度を急激に増やした場合や、十分な休養が取れていない状態が続くと、筋肉の回復が追いつかず慢性的な筋疲労が生じます。
その結果、筋肉の腫れが十分に引かないまま運動を続けることになり、コンパートメント内の圧が高い状態が持続しやすくなります。

⑤ 動作・フォーム・アライメントの問題
かかと接地(ヒールストライク)が強い走り方や、過回内(オーバープロネーション)といった足部の使い方の癖があると、走行時の衝撃や負荷が適切に分散されず、特定の筋肉に過剰な負担がかかります。さらに、下肢アライメントの不良や脚長差がある場合、左右差や動きの偏りが生じ、同じ筋肉やコンパートメントが繰り返し使われることになります。
その結果、特定の筋肉・コンパートメントに負担が集中し、内圧の上昇を招きます。

⑥ 体組成による要因
体重が増加し、筋肉量や脂肪量が増えると、コンパートメントの中に収まる組織の量が多くなります。さらにクレアチンなどのサプリメントによって筋肉内の水分量が増加したり、アナボリックステロイドの使用によって短期間で筋肥大が起こったりすると、筋肉の体積は急激に大きくなります。
しかし、筋肉を包むコンパートメント自体は簡単には広がらないため、コンパートメント内の容量だけが増え内圧が上昇します。

⑦ 既往歴・背景疾患
過去に受けた外傷や手術によって筋膜や周囲組織に瘢痕が形成されると、組織の柔軟性が低下し、コンパートメントがさらに広がりにくくなります。
また、糖尿病などによる微小循環障害がある場合、もともと筋肉や神経への血流調整がうまく行われにくい状態にあります。
これらの要因が重なることで、運動時に血流が不足し、コンパートメント内圧の上昇に対する耐性が低下するため、痛みやしびれといった症状が現れます。

治療法
① 運動量・活動内容の調整
運動量や活動内容の調整が最も重要な基本対策となります。まず、ランニングやジャンプなど痛みを引き起こす運動は一時的に制限し、症状を悪化させないことが大切です。その間は、水泳や自転車、エリプティカルなどの区画内圧が上がりにくい低負荷運動に置き換えることで、体力を維持しながら回復を図ります。
また、症状が落ち着いた後も、練習量・頻度・強度を急激に増やすことは避け、段階的に負荷を戻していく必要があります。これらの調整を行うことで、コンパートメント内圧の過度な上昇を防ぎ、症状の改善と再発予防につながります。

② フォーム・動作の修正
下腿慢性コンパートメント症候群では、走り方や動作の修正も重要な治療の一つです。
強いかかと接地(ヒールストライク)を改善し、前足部からミッドフット接地へ移行することで、下腿前方など特定のコンパートメントにかかる衝撃や負担を軽減できます。あわせて、ストライドを短くし、ケイデンス(歩数)を増やすことで、一歩あたりの負荷を減らすことができます。
さらに、姿勢や体幹の安定性を高めることで下肢への余分なストレスを抑え、結果として特定の筋肉・コンパートメントへの負担集中を防ぐことにつながります。

③ リハビリテーション
リハビリでは、下腿慢性コンパートメント症候群による痛みそのものを直接取り除くことよりも、「負担のかかり方を変える」ことを目的とします。
具体的には、下腿や足関節の柔軟性を高めるストレッチを行い、筋肉や関節がスムーズに動く状態を作ります。また、下腿だけでなく、足部・股関節・体幹を含めた筋力バランスを整えることで、動作時の負担が一部の筋肉に集中しないようにします。
さらに、神経や筋膜の滑走性を改善するアプローチを取り入れることで、運動時の引っかかりや過度な緊張を軽減し、結果としてコンパートメント内圧の上昇を抑えることにつながります。

④ 足のサポート(インソール・靴)
足部の使い方に問題がある場合は、足部サポートの調整も重要な治療の一つとなります。
過回内(オーバープロネーション)が強い人では、インソールを使用することで足部の動きを安定させ、下腿の特定の筋肉やコンパートメントにかかる負担を軽減できます。また、クッション性と安定性に優れたシューズを選ぶことで、着地時の衝撃を和らげ、コンパートメント内圧の過度な上昇を防ぎやすくなります。
さらに、ランニングやトレーニングを行う路面をコンクリートから土やトラックなどの柔らかい場所に変更することで、下腿への衝撃を減らし、症状の改善や再発予防につながります。

⑤ 物理療法
補助的な治療として、マッサージや筋膜リリースは、筋肉の緊張を和らげ、局所の血流を改善する目的で行われます。また、運動後や症状が強い時にはアイシングを行うことで、炎症や腫れを一時的に抑え、痛みの軽減に役立ちます。
消炎鎮痛薬(NSAIDs)を使用することで痛みや炎症を抑えることは可能ですが、これらはあくまで症状を和らげるための対処療法であり、下腿慢性コンパートメント症候群の根本的な原因を改善する治療ではない点に注意が必要です。

⑥ 手術療法(整形外科による治療)
保存療法を十分に行っても症状の改善がみられない場合に手術療法が検討されます。特に、リハビリや運動調整を行っても痛みが続くケースや、競技・部活動・職業上の理由で運動を中止できない人、さらに筋区画内圧測定などで明確な内圧上昇が確認された場合は、手術が有力な選択肢となります。
筋膜切開術(ファシオトミー)
筋膜切開術は、下腿慢性コンパートメント症候群に対して最も確立された治療法です。
この手術では、筋肉を包んでいる筋膜を切開することで、運動時に筋肉が十分に膨らむ余地を確保し、コンパートメント内の圧迫を解除します。これにより、血流や神経機能の改善が期待できます。
手術方法の種類
筋膜切開術にはいくつかの方法があり、患者さんの状態や罹患部位に応じて選択されます。
従来は皮切を大きく取る方法が主流でしたが、現在では小皮切法や内視鏡下筋膜切開術、超音波ガイド下切開など、身体への負担が少ない低侵襲手術が広く行われるようになっています。
成績と注意点
手術成績は、前方・外側コンパートメントでは比較的良好で、成功率はおおよそ80〜90%と報告されています。一方、深部後方コンパートメントでは解剖学的に複雑なため、成績がやや不安定になる傾向があります。
術後リハビリとスポーツ復帰の流れ
術後は、早期から関節可動域訓練や歩行を開始し、回復を促します。
一般的には、術後2〜4週で軽いジョギングを開始し、6週前後でランニングを再開、8〜12週で競技復帰を目指すケースが多くなります。
ただし、手術によって圧迫が解除されても、走り方や負荷管理が不適切であれば再発のリスクは残ります。そのため、術後もフォームの改善や運動負荷の調整を継続することが、再発予防のために不可欠です。
急性コンパートメント症候群
急性型は通常、交通事故や骨折などの重度の外傷の後に発生します。まれに比較的軽い外傷の後に起こることもあります。
症状
- ケガの程度から想像されるよりも、痛みが異常に強い
- 筋肉を使ったり、伸ばしたりすると強く痛む
- 皮膚にピリピリする・焼けるような感じが出る
- 筋肉が強く張っている、パンパンに膨れている感じがする
- しびれや力が入りにくくなる(これらは遅れて現れることが多く、重症のサイン)
原因
- 骨折
- 強い筋打撲
- 閉塞後の血流再開
- 挫滅損傷
- 蛋白同化ステロイドの使用(リスク因子になり得る)
- 締め付けの強い包帯・ギプス
急性型が疑われる場合は直ちに救急外来を受診してください。緊急疾患です。医師は診察で判断し、必要に応じて患肢のコンパートメント内圧を測定します。

深部マッサージ
患部(痛みのある区画)への深部マッサージを行い、その後アイシングをしてマッサージ後の痛みを抑える
① 筋緊張の軽減
- 運動で過緊張になった下腿筋(前脛骨筋、腓腹筋、ヒラメ筋など)をゆるめる
- 筋のこわばりが軽減し、張り感・違和感の緩和につながる
② 血流・静脈還流の改善
- 静脈やリンパの流れが促進される
- 運動後にコンパートメント内にたまる血液・水分の排出を助ける
- 一時的にコンパートメント内圧の上昇を抑える効果がある
③ 筋膜・皮下組織の滑走性改善
- 繰り返しの負荷で低下した筋膜や皮下組織の滑走を改善
- 筋肉が動く際の抵抗を減らし、運動時のストレス軽減につながる

テーピング
目的
下腿前面(すね)の筋肉を内側かつ膝方向へ引き寄せるようにテープを貼付します。これにより、下腿前面の筋群をサポートします。筋コンパートメント内への圧迫ストレスを軽減し、痛み・張り感・脱力感などの症状を和らげます。
手順①
まずはカバーリングテープを内くるぶしのやや上方から貼り始めます。後方へ回し、斜め前上方へ向かって下腿前面に沿って貼ります。

手順②
次に非伸縮テープを同じ走行で巻きます。貼り終わりの数cmだけカバーリングテープをはみ出して皮膚に直接貼ります。

前面へ貼り上げる際に、少しテンションをかけると支持力が高まります。

手順③
手順①と同様に、少し重ねながら2本目のテープを貼ります。

原因となるアライメント
① 足部のアライメント異常
- 過回内(オーバープロネーション)
- 扁平足(内側アーチ低下)
- 後足部外反(踵が外に倒れる)
→前脛骨筋などが過剰に働き、前方・深部後方コンパートメントに負担が集中しやすい。

② 足関節の問題
- 足関節背屈制限
- かかと接地(ヒールストライク)が強い走り方
- 底屈優位な動作パターン
→前脛骨筋の遠心性収縮が増え、前方コンパートメント圧が上昇。

③ 膝・下腿のアライメント
- X脚(外反膝)
- O脚(内反膝)
→
X脚:前方・外側コンパートメントに負担
O脚:外側コンパートメントに負担

④ 股関節・体幹の影響
- 股関節内旋・内転優位(ニーイン)
- 股関節外転筋・外旋筋の筋力低下
- 体幹の不安定性(骨盤前傾・後傾が強い)
→下肢全体の動きが崩れ、下腿への負担が連鎖的に増加。

⑤ 左右差・既往歴
- 脚長差
- 足関節捻挫・骨折・手術後の代償動作
→片側に負担が集中し、片側症状の原因になる。

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この記事を書いた人
アルコット接骨院院長
柔道整復師
フットケアトレーナーマスターライセンス、足爪補正士、テーピングマイスター、IASTMマニュアルセラピスト、FMS 、SFMA、FCS、BPL mentorship program修了、マイオキネマティック・リストレーション、ポスチュラル・レスピレーション、ペルビス・リストレーション、インピンジメント&インスタビリティ修了