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股関節唇損傷について(原因と症状)
股関節唇損傷とは
股関節唇損傷は、若年層から中高年層まで幅広い年代で発生する股関節疾患です。スポーツ活動中の外傷だけでなく、日常生活の中で繰り返し加わる小さなストレスによっても起こります。
股関節の構造的異常(臼蓋形成不全や大腿骨形態異常)や、股関節周囲筋の筋力低下・動作の不良といった機能的要因が発生リスクを高めます。

股関節の構造
股関節は、骨盤の「ソケット(寛骨臼)」と太ももの骨の丸い「ボール(骨頭)」が組み合わさった球関節です。
この形のおかげで、足を前後・左右・回すといったさまざまな動きができる一方、動きが大きいぶん関節を安定させる仕組みが必要になります。

股関節のまわりにはお尻の筋肉(殿筋)や太ももの筋肉など多くの筋肉があり、さらに靱帯や関節包が関節を包み込むように支えています。
その内側にあるのが「関節唇」です。関節唇は、股関節の“ふち”をぐるりと囲むやわらかい軟骨のような組織です。
形は「ひさし(屋根の端)」のように少し外側にせり出していて、太ももの骨の丸い部分(骨頭)をしっかり包み込むことで、関節を安定させています。

股関節唇の役割
関節唇には次のような大切な働きがあります:
- 骨を包んで関節を安定させる
- 関節内の液体(関節液)を密閉してスムーズな動きを助ける
- 骨と骨が吸いつくように動く吸盤のような役割(サクション効果)
このように、関節唇は股関節を守るクッションのような存在です。

股関節唇損傷の原因
股関節唇損傷は「たまたま傷ついた」というよりも、もともとの骨の形や股関節まわりの機能低下が背景にあって起こることが多い疾患です。
骨の形の問題
- 臼蓋形成不全(股関節の受け皿が浅めのタイプ)

- 大腿骨寛骨臼インピンジメント(FAI)と呼ばれる、太ももの骨と受け皿がぶつかりやすい形。股関節唇損傷の約9割がFAIを伴っていたという報告もあります。
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関節がゆるいタイプ(関節弛緩性)
- 関節包や靱帯が弱く、股関節に余計な動きが出やすい

筋力低下・動き方のくせ
- お尻まわりや体幹が弱くて、股関節に負担が集中する

スポーツや動作のくり返し
- 曲げる+ひねる動きが多い競技(サッカー・野球のキャッチャー姿勢など)

こうした要素が重なると、股関節唇に小さなストレスが何度もかかり、やがて構造が壊れて痛みとして現れます。
関節弛緩性(Joint laxity)とは?
関節弛緩(Joint laxity)とは、関節を支える靱帯や関節包がゆるくなり、関節が通常より大きく動いてしまう状態のことを指します。
もともと生まれつき関節がやわらかい先天的な要因のほか、捻挫やケガなどの外傷のあとに関節を支える組織が伸びてしまうことで起こることもあります。
| テスト項目 | 評価の方法・ポイント | 意味・解釈 |
|---|---|---|
| ① 母指が前腕につく | 親指を反らせて前腕に触れるか確認する | 手指や手首の柔軟性が高いことを示す |
| ② 肘の過伸展 ≧15° | 肘をまっすぐに伸ばし、15度以上反り返るか確認 | 肘関節の靱帯や関節包が柔らかい |
| ③ 背中で指を握ることができる | 片手を上・もう片手を下から回して背中で指が届くか確認 | 肩関節と肩甲骨まわりの柔軟性が高い |
| ④ 膝の過伸展 ≧10°(反張膝) | 立位で膝が後方に10度以上反り返るか確認 | 膝関節の柔軟性が高い |
| ⑤ 足の背屈角度 ≧45° | つま先を上に向けたときに45度以上曲がるか確認 | 足首の柔軟性が高い |
| ⑥ 立位体前屈で手掌が床につく | 膝を伸ばしたまま前屈して、手のひらが床に触れるか確認 | 腰・股関節・太もも裏・ふくらはぎの柔軟性が高い |
| ⑦ 股関節外旋180°(つま先が一直線に開く) | 立位で股関節を外に開き、つま先が一直線(180°)になるか確認 | 股関節と骨盤周囲の柔軟性が高い |

股関節唇損傷の症状
典型的には次のような症状が現れます。
- 歩く・踏み込む・階段を上るときに股関節の前や外側が痛い
- 足を抱えこむように曲げたときに股関節が痛い
- 曲げてひねる動きで「引っかかる」「つまる」「ゴリッとする」感じがある
- あぐら姿勢で違和感がある
- スポーツで急にひねったあとから痛くなった
- 痛む場所は股関節の前〜外側に出ることが多い(Cサイン)
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股関節唇損傷の検査
屈曲や内旋動作中に「コツッ」「ゴリッ」といったクリック感がある場合は、断裂した関節唇が関節内で引っかかるなど、構造的な異常が起きている可能性があります。
前方インピンジメントテスト(FADIRテスト)
Flexion(屈曲)– Adduction(内転)– Internal Rotation(内旋)の頭文字をとって「FADIR」と呼ばれます。
- 方法:仰向けで股関節を約90度曲げ、軽く内側に寄せながら(内転)内側へひねります(内旋)。
- 陽性所見:股関節の前方(鼠径部)に痛みが出る場合は、関節唇損傷やFAIが疑われます。
- FABERテストよりも反応が出やすいと報告されています。
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Patrickテスト(FABERテスト)
Flexion(屈曲)– Abduction(外転)– External Rotation(外旋)の頭文字をとって「FABER」と呼ばれます。
- 方法:仰向けで寝た状態で、検査する脚を「4の字」に組むように曲げ、膝を外に開きます。
- 陽性所見:股関節の前面に痛みが出る場合は、関節内のトラブル(関節唇損傷など)が疑われます。
ただし、炎症が落ち着いた時期では痛みが出にくくなることもあります。
股関節唇損傷の治療
股関節唇損傷は、まず保存療法(手術をしない治療)から行うのが一般的です。保存療法は約80%の症例で改善が見られると報告されています。おおよそ3か月ほど保存治療を続けても改善がみられない場合、手術を検討します。
保存療法(リハビリテーション)
安全に股関節を動かす方法
関節に強い圧力をかけたくない場合や、関節軟骨や周囲の組織)に負担をかけたくない場合には、股関節の形に沿った自然な動かし方を意識することが大切です。
股関節は丸い関節なので、無理に押し込むのではなく、関節がフィットする角度で動かすことで、痛みや負担を減らすことができます。
動かすときの基本ルール
次のような姿勢をとることで、股関節の中で骨同士がスムーズに動きやすくなります。
- 股関節を曲げるとき
→ 脚を少し外に開き、つま先を外に向けた姿勢で動かします。 - 股関節を伸ばすとき
→ 脚を少し外に開き、つま先はやや内側に向けた姿勢で動かします。
① 股関節を曲げやすくしたい場合
股関節を「曲げる+脚を開く+つま先を外に向ける」動きを組み合わせることで、無理なく可動域を広げることができます。


② 体重をかけても安定した姿勢をつくりたい場合
脚を少し開き、つま先を外に向けた状態で股関節を曲げながら体重をかけます。
股関節を約60度曲げたときは、太ももの向きと骨盤の向きがそろうように意識すると安定しやすくなります。
③ 股関節を曲げやするセルフストレッチ
このストレッチは、股関節を「曲げる・脚を外に開く・つま先を外に向ける」方向に動かし、股関節に無理な圧力をかけずに柔らかさを高めることを目的としています。
股関節の形に合った、安全で自然な動き方なので、硬さがある方や違和感が出やすい方にもおすすめです。


④ 股関節を後ろに伸ばしやすくしたい場合
「股関節を伸ばす+脚を開く+つま先をやや内に向ける」動きを組み合わせて行うと、関節に負担をかけずに動かしやすくなります。
⑤ 股関節を後ろに伸ばしやすくするセルフストレッチ
動かしたい側の脚を後ろに引いて少し外に開き、骨盤を軽くひねることで、自然につま先が内側を向き、股関節をやさしく動かすことができます。
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手術療法
保存療法をしっかり行ってもおおむね6か月くらいで改善が乏しいときに手術を考えます。現在は股関節鏡視下手術が一般的です。
損傷した関節唇を部分的に切り取る(関節唇部分切除術)
- 痛みの原因になっている関節唇のバサつく部分を切り取る手術。
- ただし、取りすぎると股関節が不安定になりやすいので、できるだけ小さく切除します。

関節唇を縫い直す・元の位置に固定する(関節唇縫合術)
- アンカーで骨に糸を固定し、はがれた関節唇を縫って元に戻します。
- 不安定性が起こりやすい症例や、寛骨臼形成不全がある症例ではこちらのほうが成績が良いとされています。

原因になっている骨の処置を同時に行う
- FAIがある場合は、寛骨臼の張り出しを削る(Pincer切除)、大腿骨頭頸部の出っ張りを削る(Cam切除)などを一緒に行います。
- 炎症で増えた滑膜も一緒に取ります。

スポーツ復帰の目安(手術をしない場合)
保存療法(手術を行わなかった)場合、復帰は、痛みが軽減または消失した時点で段階的に行います。まずは軽い練習や非接触プレーから始め、問題がなければ短時間の試合参加へと進めます。
股関節唇損傷は再発のリスクが高いため、治療後も継続的なケアが非常に重要です。炎症を起こした組織は硬くなりやすく、再び動きが悪くなったり、機能低下を引き起こす可能性があります。そのため、リハビリの段階を終えた後も、アイシングによる炎症の予防やストレッチによる柔軟性の維持を続けることが大切です。また、調子が良いと感じるときでも、体を休ませる日を意識的に設け、負荷のかけすぎを防ぐことが再発予防につながります。
スポーツ復帰の目安(手術療法)
部分切除のみを行った場合は、関節の安定性が大きく損なわれることが少ないため、比較的早い段階から荷重や関節可動域の訓練を進めることができます。炎症の回復を確認しながら、松葉杖を使用した部分荷重歩行から開始し、徐々に全荷重歩行や可動域訓練、筋力トレーニングへと移行していきます。
一方で、縫合手術を行った場合は、縫合部位がしっかりと安定するまでに時間がかかるため、一定期間は荷重や可動域を制限する必要があります。特に股関節を大きく曲げたり(屈曲120°以上)、外に開いたり(外転45°以上)する動作は、縫合部に負担をかけるおそれがあるため、術後しばらくは禁止されます。手術後4週以降から徐々に可動域を広げ、6週以降で杖なし歩行を目指します。その後、8週を過ぎて違和感がなければスロージョギングを開始し、12週以降から競技に近い動作練習へと進みます。
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この記事を書いた人
アルコット接骨院院長
柔道整復師
フットケアトレーナーマスターライセンス、足爪補正士、テーピングマイスター、IASTMマニュアルセラピスト、FMS 、SFMA、FCS、BPL mentorship program修了、マイオキネマティック・リストレーション、ポスチュラル・レスピレーション、ペルビス・リストレーション、インピンジメント&インスタビリティ修了